24 極北クレイマー(朝日新聞出版)海堂尊 ☆☆☆☆
財政破綻寸前であえぐ北海道の極北市。
そこにある「極北市民病院」が舞台。
バブル期に建設した各種の施設が多額の赤字を生み出している。
そんな極北市の市民病院に極北大学医学部より外科医師として「今中」が派遣される。
教授の主張に異議を唱えたための左遷だ。
市民病院は、病院長と市役所から派遣されている事務長が対立。
地方公務員という地位に甘え、不衛生でカルテ管理もずさんで、怠けきっている病院スタッフ。
唯一、産婦人科部長の三枝のみが市民の期待を背負っている。
そんな中、ある妊婦が帝王切開による出産で不幸にも母子ともに亡くなってしまう。
出産も100%安全ではないのだ。
今の日本ではそのような神話があるが・・・
病院側の説明に納得した遺族であったが、そんな夫の前にある人物が現れる。
医療ジャーナリスト、西園寺さやか。
自らも医療ミスで後遺症を負って、医療事故に隠された真実を被害者(遺族)に示すのだという。
さやかにそそのかされ市役所を訴えを起こす夫であったが、市役所側は「ことなかれ主義」をだし医療事故調査委員会で犯罪性なしとした報告書を示談に持ち込むため、医療事故、過失があったという報告書に作り替え、示談を申し出る。
本当はこの報告書が狙いだったのに・・・
形式だけの産婦人科学会の上層部の書面とともに証拠は固められる。
そして、三枝部長は逮捕されてしまう。
三枝部長は、ジーン・ワルツ(読書の時間’13の21)に出てくる三枝院長の息子である。
そして、前回の「ひかりの剣」でも書いた「清川」と友人でもある。
三枝部長で持っていたような市民病院は、この事件で患者が一気に遠のく。
市民病院存続の危機である。
西園寺さやかとは、「螺鈿迷宮」での唯一の生き残り、桜宮小百合。
そして、極北市監察医務院院長の南雲も加わり、追い詰められる極北市の地域医療。
そんな中、ワンマンだった市長が倒れ、ついには財政再建団体に指定されてしまう極北市。
財政再建団体の指定とは、民間の会社でいうところの倒産である。
市町村、自治体が破産したことに。
そこに厚生労働省から病院再建を託されたとある人物が現れる。
この物語は次回作「極北ラプソディ」に繋がっていく。
極北市は、夕張市をモデルにしている。
海堂先生自身が夕張市にも取材に行っている。
地域医療の崩壊を地方公共団体の財政破綻という形でわかりやすく書かれております。
海堂先生のフアンだとこの作品だけでは物足りない感があるかもしれませんが、極北ラプソディを楽しむためにはこの本を読んでおくとより楽しめます。
海堂先生の作品は登場人物の過去の背景等が結構重要になっている作品が多いのですが、シリーズの中で「北」といわれている「極北市」はこの作品で始まるので読みやすいと思います。
それでは
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