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生きているということは

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死の授業.png 「死の授業」、新井 満、講談社、2010 ISBN:978-4-06216483-2  「新潟市立寄居中学校2年2組27名は、初め驚き、やがて怒り、泣き、そうして最後に悟った。いかに生きるべきかを。」と帯にある。  本書は作家、作詞作曲家、写真家、環境映像プロデューサー、等多方面で活躍している新井 満氏が、NHK・Eテレ番組「課外授業 ようこそ先輩」で「死の実験と生きる役割」というテーマで行った授業を元に本として編集されたものである。番組は2009年1月に放映された。  この番組は、様々な職業分野で成功したり、有名になった人々が母校において後輩たちに特別授業を行ったドキュメンタリーである。対象は主に小学高学年か中学生になっている。この年齢層が感受性が高く、素直なことで対象となったのではないかと推測している。授業する先輩たちの職業の種類は多く、とてもここで展開しきれないのでホームページを参照して頂きたい。 これまでの放送:http://www.nhk.or.jp/kagaijugyou/archives/index.html  さて、授業課題の根底は「生きているとはどういうことか」を自分なりに考え、感じて貰うことにある。その裏返しとして対極にある「死」につて疑似体験をして、そこから導き出すという「うまい」方策が採られた。家族あるいは親戚の誰かを亡くした生徒には既に実感があるかも知れないが、それは何らかの導きがないと恐怖以外の何者でも無いかも知れない。  かくいう小生とて小学生の頃何かの拍子に「死」について考え込むようになった。しかし残念ながら、著者と違って導入部にあるような「今生きている喜びの発見」という悟りには至らなかったように思う。  「死」の内実は他人がいくら言葉で説明しても実感として伝わらないだろう。  そこで、最初に著者は「とても大切な人」あるいは、「とても大切なもの」を思い浮かべて絵に描いて貰うことにした。生徒はおもいおもいの場所へ行って考え、父母、家族、友だち、クラブの仲間たちなど、動物、ペット、楽器、サッカーボールや競技のユニフォームそして、地球などを描いた。著者も家族を描いた。  本書には含まれていないが、これまで放映された番組進行からすると、これらの絵を示してどのように大切かを皆の前で発表したことだろう。そして、それぞれに全員が共感したことと思われる。  さて、ここからが本題である。折角描いた絵をグラウンドで燃やすというのだ。燃やすことによって大切な人やものを失ったときの気持ちを疑似体験して貰うという。「大切な」人やものがたとえ絵であったとしても生徒たちは燃やすことにどれだけ躊躇することか容易に推測することができる。そこで燃やすことを強制しませんとの補足を加えて、言い出しっぺの著者から始めた。  後の対談にあるのだが、言い出しっぺの著者自身も燃やすことが辛く「やめにしよう」と言いたかったそうだ。生徒たちにも動揺があり、泣き出す生徒もいたという。  いくら疑似体験だとしても、本人自身が感じた以上に生徒たちには重い経験となったのではないか。そのままにしておけばトラウマとなっただろう。この後、死ぬっていうことは今体験した気持ちになるんだ。そして君たちが死んだら、両親も同じような気持ちになるだろう、その気持ちを忘れないで欲しいと話し、これはあくまでも疑似体験であって、両親や友だち、動物は死んでいなくてちゃんと生きている。、楽器やボールも残っているとフォローしている。  死ぬということは大切な人やものと分かれることであって、生きているということは大切な人やものに再会できるということだ。とも。そして、この日は帰って父母にインタビューして「私の役割とは何か」をテーマに作文を書くことにした。  翌日はそれぞれの生徒の作文を見ながらひとりひとり個人面談に当てられた。授業全体の3分の2を当てたそうだ。そのうちのいくつかが載せられている。  そして最後に、放映から1年後に行われた同校校長、2年2組の担任と著者の鼎談が含まれている。担任はこの授業の後も生徒たちと話し合いを続けてフォローしてきたという。  僅か77頁の紙幅に写真も含まれているので、内容のほとんどを取り上げてしまったが、それでも本書を手に取ることで生徒たちの感じた事がより深く伝わってくると思う。  この番組を見ていていつも思うのだが、生徒たちが皆誠実で、初めはいやがっていた課題を先輩講師の手助けを受けてこなしていくこと、そして達成感を実感しているところがすばらしい。授業で出だされたテーマに対する成果を皆の前で発表/披露したり、父兄や地域の人々を招待して発表/演技などの披露をしているのも。 番組紹介より:  さまざまなジャンルの第一線で活躍する著名人が、ふるさとの母校を訪ね、後輩たちのためにとっておきの授業を行います。授業は通常2日間、リハーサルなしの真剣勝負です。内容や仕掛けは、先輩によって実に多彩。人生で得たこと、創造の秘密、専門分野の面白さなどを、独自の方法で解き明かします。そんな先輩の思いがこもった授業を、子どもたちはどう受け止めるのか?そこには毎回、思いがけない発見と感動があります。 1998年に番組がスタートして以来、これまでに500人を越える先輩が、母校の子どもたちに熱いメッセージを送ってきました。


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