『助けてと言えない―孤立する三十代』
NHKクローズアップ現代取材班 編著
NHKの報道番組「クローズアップ現代」で行った取材の書籍化。
同じく番組の取材をもとに構成された『無縁社会』も、
現代の社会問題である孤独死を取り上げて、大きな話題を呼んだ。
本書では、当時増加していた30代のホームレスを取り巻く現状と
その原因について、徹底的な取材を基に考察を深めていく。
そして明らかにされた状況は、取材班が予想していたよりも
はるかに深刻なものだった。
39歳の男性がひとり自宅で餓死していた事件から取材は始まった。
遺体のそばには、「たすけて」と一言書かれた便箋があったが、
手紙として投函されることはなく、
だれに知られることもなく、放置されていた。
男性はなぜ、餓死してしまったのだろう。
なぜ、だれにも助けを求めることができなかったのだろう。
取材班は、男性と親しくしていた友人や親戚、
近所に住む人々を訪ね、生前の男性について聞き込みをした。すると、
まさかあの人が、という人もいる一方、特に親しくしていたにもかかわらず
助けることができなかったからか、口を閉ざしてしまう人もいた。
そんな中、取材に応じたのは男性を子供のころから知る、男性の親友の母親だ。
男性が、亡くなる直前、彼女に連絡をしてきたという。
体調を崩して寝込んでいたため、何か食べさせてほしいと言ったそうだ。
そんな男性にお弁当を持たせ、少しばかり話して別れた。
ほどなくして男性が自宅で亡くなったと知って、
気づいてあげられなかったことを反省していた。
ホームレスと一言で言っても、
その状況はさまざまである。
妻と子供がいるにもかかわらず、家に居づらくなり
公演で寝泊まりするようになった32歳の男性、
週に一回、日雇いの仕事をしている33歳の男性、
ファストフードで夜を過ごす、やはり30代の男性……。
そうした若いホームレスたちを支援するNPO法人
「北九州ホームレス支援機構」を主宰する奥田さんは、
ホームレスらしき人を見かけると必ず声をかけ、
500円分のテレフォンカードと手紙を渡す活動を続けているが、
彼らからの反応は驚くほどないという。
サポートを申し出ても、「ひとりで大丈夫」というのだ。
そこには、「自己責任」を問われ続けてきた30代の特徴が表れているという。
彼らは、自分の状況が良くならないのは、
努力が足りないからだと考えてしまうのだそうだ。
自力でなんとか這い上がって社会復帰をしなければならない、
そのために人の手を借りることなんてしたくないということらしい。
こうした傾向は30代に顕著であると世代でくくってはいるが、
いわゆる世代論とは少し違うような気もする。
たった一度の失敗や、思いがけない出来事をきっかけに
職を失った人が、それ以後まともな社会生活を
送ることができなくなる、といった日本の社会システムが生んだ
歪みが次第に膨れ上がって、明るみに出た結果なのではないだろうか。
また、昨今、家族や友人、地域などのコミュニケーションの機会が
時代とともに失われてきているといわれてきたが、
それもひとつの理由になっていることは確かだろう。
30代に限らずその周辺でも、
同じような苦しみを抱える人は少なくないだろう。
自分も家族をもたない独り身で、彼らとはそう年も違わないため
身につまされる部分も多々あり、
読みながら、まったく他人事じゃないという思いを幾度も抱いた。
近頃、景気は回復傾向にあるといわれているが、
少なくとも自分の周辺にはその一端も感じられない。
私たちはこの先も、じわじわと膨らみ続ける
不安を絶えず抱えつつ、生きていくしかないのだろうか。
ふだんあまり意識することのない
社会のひずみを正面から見てしまい、希望の光を見失った気分だ。
いまを生きる私たちを導く光はどこから差し込むのか。
悲しいかな、希望はなくとも、日々は続く。
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