井ノ口馨/著
出版社名 : 岩波書店(岩波科学ライブラリー 208)
出版年月 : 2013年5月
ISBNコード : 978-4-00-029608-3
税込価格 : 1,260円
頁数・縦 : 123p・19cm
分子脳科学分野における最新の研究成果をもとに、記憶のメカニズムがどこまで明らかになっているかを易しく解説する。
【目次】
プロローグ 来たれ!脳科学のガリレオ
1 記憶はどこに蓄えられるのか
2 記憶はどのように蓄えられるのか
3 遠隔記憶のナゾ
4 記憶と遺伝子の関係
5 記憶はどのようにして正確に保持されるのか
6 思い出した記憶は不安定になる;
エピローグ 記憶から探る精神の営み
【著者】
井ノ口 馨 (イノクチ カオル)
1955年生まれ。1979年名古屋大学農学部卒。1984年同大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士。コロンビア大学医学部研究員、ハワード・ヒューズ医学研究所リサーチアソシエート、ニューヨーク州立精神医学研究所研究員、三菱化学生命科学研究所研究主幹・グループディレクターを経て、2009年より富山大学大学院医学薬学研究部(医学)教授。専門は分子神経生物学。
【抜書】
●陳述記憶(p22)
陳述記憶……エピソード記憶、意味記憶。最初、海馬で記憶される。
非陳述記憶……手続き記憶、条件反射、など。主に小脳で記憶される。
●最近の記憶、遠隔記憶(p22)
最近の記憶……recent memory。半年より前かせいぜい2年以内の記憶。海馬依存的な記憶。
遠隔記憶……remote memory。2年以上前に覚えた記憶。海馬非依存的な記憶。
●セルアセンブリ仮説(p29)
〔記憶というのは、脳内にあるニューロン(神経細胞)の集団の組み合わせとして符号化されて蓄えられる。〕
1949年、カナダのマギル大学教授のドナルド・ヘップが提唱。
●長期増強(p47)
LTP(Long Term Potentiation)。シナプスを挟んで二つのニューロンがあった場合、信号を送る側のニューロンの軸索に電気パルスを当てるなどして活動させると、長時間にわたってシナプスの伝達効率が上昇する。記憶痕跡。
いくつかのニューロンが何らかのきっかけで活動した途端に、強いシナプス結合でつながっている他のニューロンも同時にパッと活動する。これが思い出すということ。
長期抑圧(LTD)……伝達効率を下げる。
●カハールのドグマ(p51)
サンティアゴ・ラモン・イ・カハール、スペインの解剖学者。バルセロナ大学教授などを歴任。1906年、イタリアのカミッロ・ゴルジとともにノーベル生理学・医学賞を受賞。
大人(成獣)の脳ではニューロンは分裂しないと主張。
神経学者は、その後ずっと、大人の脳ではニューロンは分裂しないと固く信じ、誰も疑わなかった。
1962年、アメリカの神経学者、パデュー大学のジョセフ・アルトマン博士がラットの実験から、成獣の海馬でもニューロンが増えていることを報告。神経新生の発見。
しかし、アルトマン博士の発見は、30 年間にわたって注目を浴びなかった。カハールの権威は強大だった。
●神経新生(p53)
脳内には1000億個のニューロンとその10倍のグリア細胞がある。脳内の周密なネットワークを構築するためには、神経幹細胞が細胞分裂を起こして数を増やし、ニューロンやグリア細胞に分化することが必要。この現象が神経新生。
新生ニューロンは1~ 2か月の間に既存の神経回路に接続し、新たな神経回路を構築する。
神経新生は、海馬から記憶を消去する。記憶は大脳皮質に移って残る。
●長期記憶(p71)
短期記憶……STM(Short Term Memory)。海馬で行われ、脳内のニューロンで遺伝子発現やタンパク質合成を必要としない記憶。せいぜい数時間の記憶。不安定で、忘却を促すような刺激(飲酒、麻酔など)に弱い。
長期記憶……LTM(Lomg Term Memory)。海馬で行われ、脳内のニューロンで遺伝子発現やタンパク質合成を必要とする記憶。1日以上覚えている記憶。遠隔記憶も長期記憶の一種だが、海馬ではなく大脳皮質で行われる。
短期記憶の中から選別されて、長期記憶にスイッチする。
短期記憶をする時には、長期増強が起きる。
長期記憶では、長期増強とともに、シナプスそのものを太く大きくする。
●シナプスタグ仮説(p80)
シナプス特異性……ある記憶Aに対して、ニューロンαは限られた特異的なシナプスでだけ長期増強を起こす。短期記憶は、シナプス特異性によって作られる。
長期記憶では、情報の入力を受けたシナプスからニューロンの細胞体にシグナルが伝達されると、細胞体で遺伝子発現やタンパク質合成が行われる。
↓
可塑性関連タンパク質PRP(プラスティシティー・リレイテッド・プロテイン)。細胞体の中のリボゾームで翻訳され、作られている。
PRPが樹状突起を経由してシナプスへと運ばれ、そのシナプスを強化する。
シナプスから何らかのシグナルが来ると、細胞体でPRPが合成されるが、その際に細胞体でPRPを大量に合成し、ニューロン内すべてのシナプスに送る。シグナルを出したシナプスにはタグ(荷札)が付いており、タグが付いたシナプスに到達したPRPのみが機能し、それ以外のシナプスでは機能しない。
↓
シナプスタグ仮説
(2013/9/15)KG
〈この本の詳細〉
honto: http://honto.jp/netstore/pd-book_25600959.html
e-hon: http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000032920169