皆川博子さんの「少年十字軍」を読みました。
ー13世紀、フランス。「神の声」を聞いた羊飼いのエティエンヌは、異教徒の手に落ちた聖地エルサレムの奪還を目指す。エティエンヌに従った少年少女の一行に、貴族領の森で暮らしていた孤児のルーが加わる。途中立ち寄った修道院で規律を破り享楽に耽っていた助修士達を罰したエティエンヌは、いよいよ奇跡の子となった。修道士達が寄付を集め、村からは口減らしや厄介払いとして子ども達が差し出され、「子供十字軍」の隊列は日増しに長くなっていく。貴族の子、レイモンは、エティエンヌに対抗心を抱き、己もまたエルサレムを目指すと立ち上がる。しかし、十字軍の前には国家、宗教、そして大人達の野心が立ちふさがるー
1212年、フランスで実際に起きた「少年十字軍」をベースに書かれたものです。実際の少年十字軍は、船を提供した商人達の手によってアレクサンドリアで奴隷商人に売り渡されるという悲劇で終わっています。皆川さんの著作の中ではかなり読みやすい部類に入ると思います。いつもよりサクサク読めました。でも、文章の臨場感が損なわれることはなく、読んでいる間中、ずっと自分も土ぼこりのなかを歩いている気分でした。それにしてもこの時代の人々の暮らしようは酷い。教会も領主も自分の利益しか考えていない。今よりずっと酷い拝金主義なのではと思えます。天啓を受けたエティエンヌは無色透明な感じの子供です。エティエンヌを妬んで自ら身体に聖痕を刻んだレイモンが、エティエンヌとして十字軍の中心に立っても何も言わない。物語を引っ張るのは狼のように森で暮らしていたルーと、レイモンの従者で記憶を失っているガブリエルの2人。ルーは現実を良く知っていて、修道士達を信用しているわけでもない。物語の終盤、ガブリエルが記憶を取り戻し、エティエンヌが最後の奇跡を起こすシーンが圧巻でした。彼等の未来は決して順風満帆ではないけれど、史実のエティエンヌ達より救いがあって良かった。エティエンヌの「神は何もしてくれないから、悪魔に祈った」という言葉が印象的でした。確かに人間の願いを叶えるのはいつだって悪魔だなあ。
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