10:29:59 sunaba-kara 09/10/2013
あなたへの登場人物/砂場からはじまる
校門から入ってヒマラヤ杉を左回りに迂回すると
砂場は人でいっぱいだ
ソラの生物
海の遠回しな喜びもなく犬は遠くかえらず
人は子どもたちで
五輪の虹に染められながら
手のひらで掘り返す
人の子どもでいっぱいだ何せ
クラスのみんな
砂場を掘っている
そうでないコもいる
ソラの生物
森の幸福な御達しなど人も犬も知らないのでなあ
理科室で画をかいていたコは
塀際の桜の木のあたりや
鉄棒のまわり
滑り台のまわりを探している
あのときあたしは十歳で若い骨でした
砂場は都営団地の小さな公園にもありました
ソラの生物はもういません
手紙を勝手に開封した麻子は喜びもなく犬は遠くかえらず
かといって悲しみだけで攻めているのではないのです
道理はおかしくても
あたしには説明のつかない砂場でした
その時あたしは四十歳になっていました
遠吠えなんかではない
なんだか甲高いものが
36号棟の向こうで
しきりに吠えておりました
ねえそこでヒマラヤ杉の右を迂回して
図書館に入ると
あたし感想を書くのが嫌だったよ
今夜もそうだな
ことばの思いが浮かばないし
砂だってなんだか湿って臭い
離婚はしないことになりました
犬がなにかを咥えては走ってゆくのを視た
記憶がありません
砂場のまわりに犬はいませんでした
犬は飼ってはいましたが
遊んだ記憶がないまま
どこかへ行ってしまいました
きっと忘れたのよというのは実はあたし自身です
だって忘れたことだってきっと忘れるから
間違いなくあのとき犬は十歳のコの骨を咥えてゆきました
頬張って色とりどりの瀧の冷たさのように飛び跳ねて
一目散に駆けてゆきましたよ
人の子どもでいっぱいの
砂場を校舎の二階から視下ろしながら
だから教師はあのコだと
決めたのです
骨の先にはきっとあのコの魂が下がってる
教師は少し前から
かたく信じていたからです