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もうじやのたわむれ 323

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 段古守大尉はそう云って、迷彩着色された戦闘服の上に着ている、黒色の防弾チョッキの胸を叩いて見せるのでありました。  我々は川上防衛隊員三鬼の先導で、港のビルを出ると、港湾職員専用出入口脇に停めてある、艶消しのオリーブドラブ色に塗装されたマイクロバスに乗りこむのでありました。地獄省に渡る亡者達が乗船する、或いは乗船手続に並んでいる筈のロビーとかは避けて通らなかったので、拙生は拙生と同じ亡者らしき者の姿を全く見ないのでありました。  マイクロバスは港湾施設を出ると、暫く、鬱蒼たる森林の中の広い舗装道路を疾走するのでありました。拙生は前に地獄省に渡る折に、こう云う道は通らなかったのでありました。恐らく亡者達が船に乗るために港に向かうルートとは、違う道なのでありましょう。  森林を抜けると道路の左右に、道に沿って高い塀を廻らせた相当に広そうな敷地があって、その塀の中には娑婆の郊外によくある、クリーム色をした五階建て程度の団地のような建物が、広い間隔をとって複数戸並んでいるのでありました。 「この建物には、準娑婆省の鬼とか霊とかが住んでいるのでしょうか?」  拙生は前の座席に座っている補佐官筆頭に訊くのでありました。 「いや、この塀の中は奪衣婆港に勤務する閻魔庁職員や、地獄省川上防衛隊の鬼達の居住地区です。この中にはスーパーマーケットやコンビニやその他の色んな商店、それにバーとかキャバレーとか居酒屋とか喫茶店とか、それにゲームセンターとか麻雀荘のような遊戯施設もありまして、ちょっとした地獄省の街のような感じになっておりますよ。敷地の外れには公園とか運動場とか体育館もありますし、広大な防衛隊の訓練場とかもあります」 「閻魔庁職員とか川上防衛隊員の占有地なのですね?」 「そうです。港湾関連施設として、閻魔庁が準娑婆省から永久的に租借しているのです」 「ここには準娑婆省の鬼や霊は立ち入れないのでしょうか?」 「ええ、立ち入り禁止です。閻魔庁や川上防衛隊の鬼が、出来るだけ準娑婆省の連中と接触しなくて済むように、この中で日々の生活の殆どが完結するようになっております。生活物資なんかも準娑婆省で調達することなく、地獄省から総て運んできますから」 「ふうん、そうですか」  拙生は拙生が生まれた佐世保にあった、日本人立ち入り禁止のアメリカ軍関連施設を何となく思い浮かべているのでありました。 「川上防衛隊は一個師団程度が駐留しておりますし、奪衣婆港に勤務する閻魔庁職員とか、中にある様々な商業施設なんかに勤める鬼とかも含めると、優に五千鬼はこちらに駐留している勘定になりますから、それこそちょっとした地獄省の街だと云っても、決して大袈裟ではありませんよ。三水の瀬港、江深の淵港も、多少規模は小さくなりますが同じです」 「まあ、三途の川の渡河に二三時間かかると云うのですから、地獄省から毎日通勤するとなると確かに少し遠いですかねえ。そうするとこちらに住んだ方が好都合ですかな」 「そういう事です。それに準娑婆省には、我々が日常的に使用するに足る品質の日用品も本当にないですし、食品に関しても質的にも味的にも、地獄省の物よりは数段劣りますから、そう云った物もこちらで調達せずに、総て地獄省の方から持ってくる事になるのです」 (続)

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