(作品紹介)
谷川流・超公認! 驚きと感動の新感覚シリーズスタート
流され体質の裕の席は「涼宮ハルヒ」のキョンと同じ位置。しかしハルヒが座るはずの席はずっと空席のまま。ある日声優への道を歩み始めた幼馴染カスガを送った裕は、偶然出会ったアニメ脚本家マコトに食事に誘われ?(webKADOKAWAより)
感想は追記にて。
(感想)
見るからに釣る気満々のタイトル。帯には谷川流超公認シリーズ開幕!の文字。最も、キョン談、という形で書かれたコメントは、一見この本を読んでいないのではないか、と思えるようなものですが。でも、読み終わってみると、ちゃんとタイトルの意義を自分なりに解釈した上でコメントを書いているようにも見えるから不思議です。
こんな挑戦的なタイトルをつけた作品を出してきたのは、新井輝さん。知らない人が多いかも知れませんが、今は亡き富士見ミステリー文庫で『ROOM No.1301』が代表作に挙げられると思います。まさに寸止めラノベという感じの作品でした。また、あとがきにも書かれていますが、2012年は『戦国コレクション』の脚本を担当していたりします。「スタイリッシュ成敗」が話題になった第4話の伊達政宗回の脚本家、と言えば思い浮かぶ人もいるかもしれません。
そんな新井輝さんが、2009年以来3年ぶりに出版した作品。『ROOM NO.1301』を楽しんだ人間としては、読まないわけにはいかない、という訳で、読んでみました。
まず、読んでみて感じたのが、作品の印象的にはいつもの新井輝作品である、ということ。主人公がそうであるせいか、どことなく淡々と物語が進んでいく感じです。それこそ『涼宮ハルヒの憂鬱』とは全く逆といっても過言ではないような印象を受けますが、それこそがこのタイトルにこめられた意味ではないかと思います。
『涼宮ハルヒの憂鬱』に出てくる印象的なフレーズ「ただの人間には興味ありません。」それに対して、この作品の主人公は、
「だったら、ただの人間はどうしたらいいんだ?」(P.3)
と疑問を持ちます。普通の人間である主人公。ハルヒに興味を持たれることがない主人公。そして、この世界にはハルヒのように超常現象を起こす人間はいません。少なくとも、主人公の身の回りには。主人公の周りの世界は、ただ淡々と日々が過ぎていきます。この不思議なことが起こらない、普通の高校生が繰り広げる物語、という意味をこめて『俺の教室にハルヒはいない』というタイトルをつけたのではないか、と感じました。
そんな普通の人間である主人公が繰り広げる物語ですが、展開的には3角関係を描いた物語になりそうです。主人公であり、普通の高校生のユウ。彼の幼なじみで、声優を目指すカスガ。主人公がたまたま知り合ったアニメ脚本家・マコトの紹介で知り合ったクラスメイトで現役の人気アイドル声優・アスカ。この3人が繰り広げる恋の物語になりそうです。そう考えると、内容的にもハルヒとは遠く離れているような感じがします。
声優をストイックに目指すために、楽しいことを捨てたカスガ。カスガの憧れで、人気のアイドル声優であるが友だちがおらず、仕事の疲れから楽しいことを求めようとしているアスカ。正反対のような2人に挟まれた聞き上手の主人公。彼がどうなっていくかが物語のポイントになりそうです。まだまだ物語は始まったばかりですが、この巻ではとにかく主人公が安請け合いをしている、というか、「困ったら呼んでくれていい」みたいなことを色々な人に言っているのが、印象に残りました。この種が、今後どう主人公を苦しめていくことになるのか、気になるところです。
作品のメインは三角関係になりそうですが、作品中に登場するオタクネタが登場するところも見所かも知れません。これは、この世界が、あくまでも読者である私たちが住む世界と同じである、というものを表現する為のものだからかもしれませんが、決してパロネタに使用しているわけではありません。「ガンダムUC」や「水樹奈々」「仮面ライダー」「ウルトラマン」「WHITE ALBUM」「to Heart」のネタが出てきて、分かる人にはにやりとできるのではないでしょうか。
ちなみに、物語の時間的には今から数年前、ということです。ただ、正確な年代は当てはめることはできないようなのでご注意を。
この巻ではまだまだプロローグ、という感じです。そもそも、ヒロインの一人であるアスカが登場するのが、物語の2/3を過ぎたところからでしたので。この巻では、それぞれのキャラクターとの出会い、というところ。物語が面白くなるとしたら、次の巻からなので、2巻が出てから一気に読むのがいいかもしれません。
気になる点があるとしたら、作品の雰囲気で好き嫌いが分かれそうな気がするところでしょうか。『ROOM NO.1301』を楽しんでいた私としては、なかなか楽しめましたが、言い回しが苦手、という人もいると思います。「ちょっとタイトルが気になっているけど……」という人は、スニーカー文庫の特設ページに試し読みがありますので、それを読んでから購入するのがいいと思います。
『俺の教室にハルヒはいない』特設ページ ←クリックすると、特設サイトにジャンプします。
私としては、新井輝さんの新作ですし、これからどう物語が展開していくか期待したいところです。願わくば、タイトルに名前負けしない作品になることを。