全10巻を読み始めました。世界史音痴ですから、WWⅡの勉強みたいなものです。
第1巻は、ヒトラー誕生(1889)から1936年のラインラント進駐、ベルリン・オリンピックまでを扱っています。残りの9巻で、ヒトラーの生涯56年のうち1936~1945年の9年間を描くことになります。
第1巻は盛り沢山です。睾丸が1個しか無いヒトラーが、美術学校の受験に失敗し政治家を目指すところから、「ミュンヘン一揆(ビヤホール一揆)」、「長いナイフの夜」を経て首相、大統領権限を持った独裁者に駆け上ります。高校中退のチョビヒゲの小男が、ドイツの最高権力を握る不思議の物語です。
何故ヒトラー伍長が“ヒトラー総統”になったのか?ポイントはこの辺りです。著者は面白い表現を使っています。
空腹になれば両極に走り満腹になれば中心に集まる
この空腹こそが、“ヒトラー”生みの親でしょう。空腹とは「ヴェルサイユ条約」です。ヴェルサイユ条約の賠償で、ドイツは領土を削られ、莫大な賠償金が課せられます。フランスは戦争で荒廃した炭鉱の代替としてドイツの炭鉱地帯ルールを占領し現物による賠償を要求します。猛烈なインフレとなって、敗戦後のドイツ経済は破綻します。
この空腹につけこんで極左極右の政治団体、政党が伸張するわけです。ここで頭角を表すのが国家社会主義ドイツ労働者党(ナチ党)のヒトラーです。敗戦後、ヒトラーはワイマール共和国軍(第1次大戦でドイツ帝国が滅んでワイマール共和国)に入り、ナチ党の潜入捜査のようなことをやっていたらしいですが、ミイラ取りがミイラになって、たちまち幹部に上り詰めます。このナチ党のスローガンが、「アーリア人至上主義」、「反ユダヤ主義」、「反共」、「独裁」。ヒトラーが入党する前からあった綱領なの、ヒトラーが入って後に作ったものかよく分かりませんが、後の「ナチ」の原型がここにあります。
おまけに、この党は、「突撃隊(SA)」という軍事組織を持っています。このナチ党でヒトラーはエルンスト・レーム(SA隊長で後「長いナイフの夜」で粛清)、ヘルマン・ゲーリング(後の航空相、ドイツ空軍総司令官)、ヨーゼフ・ゲッベルス(後の国民啓蒙・宣伝)、ルドルフ・ヘス(後の副総統)、ハインリヒ・ヒムラー(後の親衛隊SS隊長)に出会います。第三帝国の悪役がほとんど揃っているんですねぇ。逆に言うと、ミュンヘンの小さな政治結社「国家社会主義ドイツ労働者党」が国家規模まで大きくなって全ドイツを覆い「第三帝国」となるんですね。
1918:アントン・ドレクスラーは「ドイツ労働者の平和に関する自由委員会」ミュンヘン支部を結成。カール・ハラーとドレクスラーは、ドイツ労働者党の結成準備
1919年:ドイツ労働者党 (40人程度の政治サークル)、ヒトラー入党
1920年:ヒトラー、ドレクスラー 、25カ条綱領を制定、突撃隊創設
1921年:党員6千人。
1923年:
1月:仏のルール占領、インフレーション激化
9月:非常事態宣言
11月:「ビアホール一揆」、ヒトラー逮捕、ナチ党は非合法化、「我が闘争」執筆
1924年:ヒトラー保釈
逮捕されたヒトラーは、暇に任せて獄中記「我が闘争」を執筆します。このナチスの聖典に後のヒトラーの行動がすべて詰まっている様です。
ヒトラーというとモンスターの様なイメージがありますが、 そのモンスターをつくり出したのは時代でありドイツ国民であることがよく分かります。別にドイツ人云々の話ではなく、たぶん誰の中にも存在するモンスターが、ヒトラーの姿を借りて出現したのかもしれません。もっとも、一人歩きするともう止められませんが。
ノンフィクションですから、ヒトラーが税金で苦労したり女性関係の話があったりで、読みやすいです。絶版とは残念です。