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風に舞いあがるビニールシート、を読んだ。

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読後感が非常に微妙な作品。確かに直木賞を受賞するだけの事はあるけど、読後感は特にさわやかでもない。かと言って、印象の悪いまま終わるわけではないが、終わるまでのプロセスが非常に中立的な偽善の匂いがして、それでアンタは具体的に何をしているの?と聞きたくなるようなバツの悪さがある。 直木賞的なテクニックはあるが、カタルシスを得られるどころか、問題の提起になっちゃっているのも多いので、どうにも説教臭いところも否めないのだ。何で他人のあなたに金払ってまでいわれなければいけないのか、と多くの読者は思うはず。 六つの短編集なのだが、全体に通底するものは、女の性欲と業(ごう)であると感じた。少なくとも半分はそうだった。だから、全体的にはあんまり好きな本ではない。でも、ある意味、目の付け所はいいのだろうな、と直木賞を選ぶ観点から邪推してしまう。 彼女のそれまで書いたものを見てみると、中に「カラフル」というものがあった。映画化され話題となる、とあるが、それがアニメ映画のColorfulだとすると、彼女らしい作品だなと思う。何というか、一種のあざとさがあって、万人に愛されるものではないのである。そして、Colorfulの最初の数十分で、この主人公って自分の身体の中に戻されただけじゃないよなぁ、もしそうだったら脚本が三流だなぁ、と思っていたら案の定そうでしたw。なんつーか、推理小説で序盤に分かっちゃうのと大して変わらず、正直興ざめでした(つまらないのでほとんど推理小説読まないけど)。何というかあえて見せなくてもいい人間のドロドロ感を出すのが、彼女の真骨頂なのかもしれない。   レビューします。ネタバレ御免。というか、ずいぶん前の本だからテレビドラマ化もされていた気がするし。 ・器を探して ヒロミと呼ばれるどうしようもないワンマンパティシエの御守りと主人公の葛藤。ヒロミに難癖を付けられて、クリスマスイブに恋人とあえずに美濃焼を買いに行くお話。ヒロミというのがとんでもなく女の業を抱えていて、すぐ股を開くバカ女でどうするよ、って延々文句を垂れる感じ。自分が望んでやった仕事なんだから、辞めるなら辞めて、やるなら黙って仕事しろよ、という感じ。自分の男もそれはそれで女みたいに、自分と仕事どっちを取るみたいな事になってるし、女みたい。最後の締めくくりも歯切れが悪く、結局、現状をうまく動かしてやるという密やかな野心で終わる。美濃焼周りの話はそれなりに面白いが、どうにも二人の女の業が強くて見ていられない醜さだった。 ・犬の散歩 犬のボランティアのために、スナックでホステスをしている物好きな女の話。捨て犬などで殺されていく犬達を助けたいけど、みんな無関心なんだよって話。そんなもん、安易に買って捨てる人が悪いだけなんだけど、何でみんな殺される犬に対して手を差し伸べないの、という苛立ちが感じられる。 それは分かっていると言わんばかりに、紛争時に危ないのを分かっててイラクに行った人に税金で助けられる事を糾弾する人達を逆にけなしている。戦争時にのうのうとカフェで飯食ってるヤツに、言われたくないみたいな。それが日本中の過半数を占めている考えだ、という事を前置きしていながらも異議を唱えている。 マイノリティの意見が潰される事はあまり本意ではないけれども、別にそんなに期間限定で非常に危ないところに行くヤツなんて、そもそもその時の浮いた気持ちで動いちゃうヤツだから糾弾されても仕方ない。探せばもっと貧困に悩んでいたり、社会的な仕組みなどで裕福になれないところだっていくらでもあるわけで、やっぱり功名心が全くなくての行動では決してないとしか言えないのだ。 だから、犬を助ける人とそういうヤツとの共通点は、自分の好きなようにやっているというところだけだ。周りの人に迷惑になるかどうかは全然違うけどね。でも、自分が良かれと思ってやっている事には違いない。「ふんぞり返っている背後の声がグロテスクな冗談」とイタリアンレストランで感じ、自分以外の誰かのために何かをしようとした人達を弾劾する事に、羞恥の念とすら言っている。イタめし食ってコメンテーターの言葉を借りてきてるだけのおばさんの言葉なのに、自分がそっち側の人間に入りたくないんだって。そりゃ殊勝な考えですね。俺もそういうおばさん達の下世話さはどうかと思うけど、その下世話さと政府があえて行くなと言っていた紛争地に行くバカさ加減とは別問題だ。 それに、イラクで税金を使って身代金を払った奴らがいるんだから、犬に税金使えと言わんばかりの勢いの犬好きらしい。別に犬好きなのはいいとしても、商業でやってる小説で自分の思いの丈を乗せ過ぎである。最後の方で、犬の可愛さにとろける義父が出てくるが、そんなも犬好きの溺愛ぶりを見せられたところで、ドン引きする人もいるだろう。犬をきちんと飼っている人にとっては共感を産むかもしれないが、犬を捨てるどころか飼ってもいない人間から見れば、そうですか、良かったですね、としか見られないのだ。犬にしてもイラクの身代金にしても共感なんてできないのだ。 その共感のなさは、同題名の最終章につながるところがあるが、「風に舞いあがるビニールシート」の方はまだ全然マシだったのがまだ救いようがある。こういう溺愛ぶりに憧れて犬を飼ったがやっぱ捨てる、という構図が見えなくもない。大体、犬を飼う大半が友達が飼っている犬を自分も欲しいという所有欲から来ていて、いきなり思い立って犬を買おうなんて思ったりは普通はしないものだからだ。子供に欲しいと言われて、結局親が全部世話しているケースなんて腐るほどあるだろうから、潜在捨て犬度はもっと高いと思われる。そもそも、自分の尻も拭けないガキが犬の世話なんてできるか、って話で犬を捨てるのはそういうガキと一緒なだけだ。犬に限らず、日本の生態系を脅かす海外の動物を捨てるバカの方が問題だけどな。脳みそないのかよ。 ・守護神 レポートを代筆してくれるニシナミユキを探す話。大学の第二部で、仕事で思うように単位が取れない人のために代筆しているのがニシナミユキだが、彼女に誤解されていてそんな助けが結局要らなかったという。話としては面白いのだが、少々なりともエロい展開もないし、最終的に学術に手を抜けない主人公に対し、今までやってきたんだからヤレと発破をかけるだけで終り。勉強ができる人同士の心のカラミがあっても良かった気がする。 ・鐘の音 これらの作品の中では、とても飲み下しやすい物語。人生色々あるけど、何が幸福につながるかなんて分からないってことですよね。というか、この人は女の人が主人公だと、自分に物語を惹き付けすぎていて、自分の思いをぶつけるために説教臭くなってしまっている。「犬の散歩」と「風に舞いあがるビニールシート」は特にそうだ。先に言ったように、女の業がありありとしていて、男としてはあんまり見たくない。 やはり、直木賞に選ばれるだけの力はある。器を探してのウンチク具合は適当であったが、それを更に膨らましたボリュームだった。仏像などに関する専門用語がバリバリ出てくるのだが、その分かりにくさを感じさせない読み口でした。更に、少々どんでん返しと言うか、はっとする本当の理由が出てくるのだが、それも仏様とのご縁を絡めていたので面白い。 僕はあまりそういう宗教が一部顕現するような話は好きじゃないんだけど、これはあぁそういう事もあるのかもな、と思えてしまうちょっといい話でした。にしても、仏像をプラモデルの接着剤でくっつけるのが笑えた。まぁそこいらも仏様のお導きというところで。 でも、ボンドは商品名なので、接着剤って書かないとマズいかも。それにプラモデルにボンドって使わないんじゃ? セメダインとか? というか、ガンダムとかのプラモだと最近は接着剤要らないんだよね、たぶん。あの臭いが嫌いでプラモがダメだったから、いい世の中になったもんだね。まぁ家の中に置くところないから作らないんだけどさ。 ・ジェネレーションX 今で言えば、ロスジェネとゆとり世代というところだろうか。書かれた年が少し古いので、シラケ世代と新人類(その時には当てはまるレッテルがなかったのだろう)との軋轢から和解まで、ってところ。勢い余って説得してくるような「犬の散歩」よりかはいいのだが、結局、お互い野球というつながりがあって、ヒドい私用電話を完全に許す事ができたという、偶然のマッチングの話。確かに、仕事的には、クレーム処理をきちんとやってくれているところは、私用電話とは全く違った優秀なサラリーマンらしさを出していたが、それはそれで当たり前の事だと思う。仕事が出来るのは当たり前。仕事出来ないくせに、私用電話とかマジ有り得ない。 俺なら仕事中に私用電話する事にイヤミの一つでも言っているわけだが、この主人公は少し大人なのかな。仕事に重要な時間に、毎回マナーモードにしておかないバカがいて(年上)、お願いだからマナーモードにしとけって言った時があった。その後、部屋から出る前に電話に出て明らかに私用電話かけてるんだぜ、アホかと思った。その他にも会社の回線を利用して私用電話かけているもっとクソ野郎もいたけどな。あんなヒドい人がなぜこの世で渡って行けるのかが不思議だった。スゴく無神経だから出来るんだろうな。そのくせ、色んな事に文句を付けまくる最悪な人だった。少なくとも日本から消えてほしかった。 今のロスジェネとゆとり世代の方が溝は大きそうだな。ゆとりは年上に対する礼儀を全然知らないヤツが多いもんな。奴らにまともな接待は出来ないであろう。仕事がバリバリできて、無愛想ならまだしも、仕事もできないし、先輩も立てる事ができないし、何も出来ないくせに自分の主張だけしやがるクソ野郎の集まりだ。ゆとり教育に問題があるとかじゃなくて、まともに年上のいる世界にいた事がないんだろうな。部活などをやれば、先輩や先生と密な交渉をしなくてはならないし、親にしたって友達感覚のゆとりが多いんだろう。そのくせ、自分がゆとり世代だと言われると、途端に機嫌を悪くする。実際、あんたはそのカテゴリに入ってる行動してるよ、って気付かないゆとり。先が思いやられる。 ・風に舞いあがるビニールシート ビニールシートは難民の比喩。その比喩はちょっと「百年の孤独」のレメディオスの事を思いだしてしまった。UNHCRで働く日本人女性と現地派遣員エドとの話。 ビニールシートのように軽く飛ばされる人命を飛ばされないように働くUNHCR。高給取りだった会社を放り出してまで入ったUNHCRで、フィールドワークをするエドにある意味、対抗意識的に対応していたら、ある日飯に誘われてその日にエドと寝てしまう。 そんなに白人のチンポがいいのかよ、と思わなくはないが、母性本能をくすぐる放っとけないタイプだったのだろう。まぁ日本人にはまずいない、大人の白人のセクシーさを見せられて、自分の事をセクハラギリギリに褒められたら、一晩くらいエロい事をしてしまうのも仕方ない話かもしれない。そしてセックスも誠実で上手かったら文句も出まい。男としてなら、据え膳食わぬはなんとやらかもしれないけど、少しでも可愛い女の子がそんな事してたら、色んな男とヤリまくらなくてはならなくなる。それはそれで、うれしいような、悲しいような…。なぜかそういう娘が周りにいないのは悲しいところではあるのだが。 いいところに住んで、たまにフィールドから帰ってくるエドとヤリまくる生活が耐えられない。というか、そもそもその恵まれた状況にも満足せずに、エドを安住させるため洗脳しようとする。だけど、フィールドワークが命(文字通りに)のエドを変える事はできなかった。セックスの相性がいいだけに別れる事もできない。友達に自分の夫が危険地帯にいる事を抗弁しても、国連機関に勤める妻で勝ち組だと思われていた。表面的には白金住まいの亭主が年中留守なんてうらやましいなんてのは、ごく一般的に考えると、女の業としてはとてもいい状況にあるわけだ。周りに理解されないのも仕方がない。でも、それ以外のごく普通なものを彼に求めた。 結局、どちらも我慢していたために、結婚生活は破綻して、別れた日に人に触れると眠れないエドに触れる事ができた。うわぁ、すげえ泣ける。更に人に触れると眠れない理由を聞くと、心臓がきゅーっと絞られる思いがする。誰かエドを、エドの魂を救う事はできなかったのだろうか。たぶん、誰にもそれはできなかったのだと思う。自らの人生を犠牲にしてまで紛争地の人々を助ける事しかできなかったのだろう。そうでなければ、誰も救われない。 最後に迷っていたフィールドへの勤務の申し出をする。僕はそこまで望んでなかったけど、気が済むならやればいいかとは思った。作者はそういう風に多少さわやかに終わりたいと思ったのかもしれないし、死んだエドの意向からすると、そうする事が供養にもなるし、自分の停滞状態の脱出にもなるかもしれない。でも、何というか大団円で終わらせる事に疑問を感じてしまうのね。エドと初めて寝るのも結婚をするのも勢いだし、最終的に色んな後押しする理由はあれ、フィールドに行くのも勢いで行っちゃってる感じだ。この女の人は、その場の勢いで何かして公開するタイプなんじゃないかと思ってしまうのだけれど、彼女が救われるにはフィールドワークしか残されていなかったのかもしれない。
うーん、頼まれてもいないのに、夏の読書感想文を書いてしまったな。読まされる先生方には同情をするくらい不満たらたらだったけど、実際、部分的にあまり褒められたものじゃなかった気はします。才能があるけど、展開などがあざと過ぎる嫌いがある(直木賞的にはそれでいいんだろうけど…)。まぁ50ページの短編にしては、調査した文献や聞き込みは素晴らしいものだと思う。一つの短編にかけるほどの分量じゃないな、とは思ったけれど、これがプロのやり方なんだろうなと思ったりもした。作品は嫌いな部分もあるけど、森絵都さんはスゴい人だなと思わせる作品でした。

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