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伊藤計劃さん「虐殺器官」

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虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 伊藤 計劃
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/02/10
  • メディア: 文庫
伊藤計劃さんの喪失は日本のSF界にとって大きすぎます。改めてそう思いました。 サラエボが核爆発によってクレーターとなった世界。後進国で内戦と民族衝突、虐殺の嵐が吹き荒れる中、先進諸国は厳格な管理体制を構築しテロの脅威に対抗していた。アメリカ情報軍のクラヴィス・シェパード大尉は、それらの虐殺に潜む米国人ジョン・ポールの影に気付く。なぜジョン・ポールの行く先々で大量殺戮が起きるのか、人々を狂わす虐殺の器官とは何なのか? (wikipediaより) 読んでいる間中ぞわぞわする感覚が消えませんでした。9.11以降の世界が描かれます。高度に管理化された先進国。内戦と虐殺の蔓延する後進国。先鋭的なテクノロジー。 SFが提示する近未来の姿を満喫しました。 主人公のクラヴィス大尉の所属がアメリカ情報軍 特殊検索群i分遣隊という特殊部隊だけに夜に紛れての降下やゲリラとの戦闘など血生臭いシーンが展開されますが、アメリカっぽい(勝手なイメージ)カラッとした雰囲気でジメジメした感じはありません。侵入鞘(高速で落下する生体パラシュート)や環境適応迷彩(カメレオンのようなハイテク迷彩)のようなSFっぽい軍備は湾岸戦争のニュース映像で見た、「ゲームや映画のような」イメージを高度に洗練されたような印象さえ受けます。こういう書き方が適切かどうかわかりませんが、戦争小説≒娯楽小説としても読めます。 そうはいっても、やはりタイトルにもなっている「虐殺器官」というものが物語のキーです。 人間が生まれながらに備えている「虐殺器官」というものがあり、無意識・理性的に潜在化されているが、言語学者であったジョン・ポールが顕在化させる術を発見してしまうものです。 ジョン・ポールが「虐殺器官」をもって世界各地で紛争を引き起こした動機もさることながら、ラストに意表を衝かれました。こういった小説のラストはえてしてロマンティシズムに陥りがちだと思うのですが、想像以上に悲観的というか破壊的でした。(果たしてアメリカ人が自国に対してこんな行動を起こせるかという疑問もあります) 提示された世界、ストーリイとも衝撃的な物語でした。

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