ど~も。ヴィトゲンシュタインです。 手塚 正己 著の「軍艦武藏」を読破しました。 日本海軍の戦艦モノとしては子供の頃から好きだった「武蔵」を読んでみようと思っていましたが、 いろいろコメントをいただいた結果、本書を選んでみました。 2003年にハードカバー、2009年に文庫で再刊された本書は、上下巻で1300ページ。 武蔵が好き・・とはいっても、No.2が好きとか、プラモを作ったことがある(けど途中で挫折・・) なんてレベルですから、初めて武蔵を詳しく知ることになります。 第1章は「三菱長崎造船所」です。 昭和12(1937)年、世界の海軍史上例のない最強の攻撃力と、最高の防御力を兼ね備えた 戦艦の建造がスタート。「第一号艦(大和)」、「第二号艦(武蔵)」です。 全長は263m、基準排水量64000㌧、46cm砲3連装3基という数字が挙げられていますが、 それまでの連合艦隊旗艦であった戦艦「長門」の数字も比較しています。 まぁ、二回りは大きい感じですね。 ちなみにドイツの誇る戦艦ビスマルクは全長241m、基準排水量41700㌧、 38.1cm連装砲4基ですから、これでも20mは大きいんですね。 建造計画から完成に至るまでの過程が細かく書かれているわけではなく、 「兵隊に遊郭は付き物である」なんていう話が多くて楽しめます。 重巡「鳥海」が竣工して、長崎から母港の横須賀へ去ると、しばらくしてから 赤ん坊をおぶった若い女が横須賀に大勢やって来て、 「この子の父親は鳥海に乗っているのですが・・」。 そんなわけで鳥海太郎とか、鳥海花子なんていうのが沢山出来てしまったため、 武蔵の艤装員も「この子の父親は『第二号艦』」ということのないように 気を付けなければなりません。 公試運転が始まるとミッドウェー海戦で沈没した空母「赤城」の生残りらも乗り込んできます。 そして新兵に対する「制裁」も詳しく紹介。 その日の反省で分隊士から注意を受けた下士官は、最古参の兵長にひとあたり説教。 すると今度は若い兵長、上等兵、一等兵が集合をかけられて、 古参兵長からアゴに拳骨、もしくは突き出した尻に「バッタ」・・。早い話が「男気注入」。 古参がさっぱりして出ていくと若い兵長と上等兵が「てめえらのおかげで、この野郎っ!」と 一等兵に制裁が・・。そして最下級の一等兵は憤懣をブリキ缶や給水ポンプにぶつけるのでした。 連合艦隊旗艦となった「武蔵」には山本五十六長官が乗り込むことになります。 そんな艦上で行われた運動会。盛り上がるのは、 封筒の中に書かれた「宝」を見つけてゴールを目指す「宝探しゲーム」です。 ソロバンやメガネは良くある品物ですが、「長官」と悪戯で書かれた紙が・・。 その時、1人の選手が「長官っ!」と叫ぶや、山本長官に向かってまっしぐら。。 それまで腹を抱えて笑っていた観衆も、思わず息を呑むのでした。 そんな長官が数ヵ月後の昭和18年4月18日に戦死。 武蔵が横須賀に辿り着くと御召艇に乗った天皇一行が乗船します。 トラック島に入泊すると、乗員たちの渇望していた上陸と、ムクムクと湧き起こる性欲。 「突撃一番」と勇ましい名前の付いたコンドーム2個と消毒クリームを持っていざ上陸。 抜き身で合戦を挑んだら、十中八九病気を貰うのが当たり前。 そんな慰安所に列を作る彼らの15分1本勝負も具体的に・・。 なかなか出番の巡ってこない大和と武蔵の興味深いエピソードが続きます。 昭和19(1944)年3月には山本長官に続き、その後任の古賀峯一長官も失い、 「マリアナ沖海戦」も惨敗・・と、戦局も悪くなる一方です。 7月には呉軍港から大和と共に南方へ向けて出航。 南方へ輸送される4000名の陸軍兵も分散して乗り込んできます。 少将である朝倉艦長を追い抜きざまに兵員がヒョイと敬礼を行い、 それに「おう、おう」と軽く答礼する艦長の姿をを見て、呆然とする陸軍兵。。 陸軍で少将といえば「旅団長」クラス。そんな将官の尊大さは微塵も見えません。 陸軍のお客さんが向かう先は全滅が相次ぐビルマ方面。 「インパール作戦に投入されるのか。そうしたらあいつらは生きて還れるのか・・」。 居住区では煙草に羊羹、キャラメル、缶詰、石鹸といった類が小山の程に集められ、 水兵長が「集めた物は陸軍さんに差し上げろ」。 そして「死ぬなよ」と硬い握手を交わすのでした。 8月12日には「武蔵」最後の艦長となる猪口大佐が着任。 武蔵4人目の艦長ですが、艦長ってのは結構頻繁に変わりますね。 ドイツ海軍でもそうですが、戦艦だと基本が大佐で、昇進するといなくなっちゃうんでしょう。 10月、遂に出撃。 「シブヤン海」での海戦ですが、栗田艦隊の第一戦隊として大和、長門と行動を共にします。 そして敵急降下爆撃機と雷撃機が武蔵に迫り・・・、といったところで上巻は終了。 下巻は海戦の続きですが、、この「シブヤン海」の海戦ってのは、 いわゆる「レイテ沖海戦」なんですね。 日本側に直衛の戦闘機がいないのをいいことに、敵機は執拗に反復攻撃。 3本の魚雷を受けて速力の低下をきたし、脱落しつつあります。 腕を吹き飛ばされた者など、重傷者が続発する武蔵。 一番主砲横の単装機銃の射手は、爆風によって被服を一枚残らず剥ぎ取られ、 機銃の架台から腰に巻かれたバンドに体を預け、天を仰いだままの姿勢で絶命。 防空指揮所も大きな被害に遭い、士官2名、下士官11名が戦死し、 猪口艦長も右肩甲部に鉄板が食い込んでいます。 貫通した爆弾の爆発によって艦の中核である第一艦橋が壊滅。 小林2曹は椅子に腰掛け、両手で双眼鏡を掴んだまま事切れていますが、 その頭部は見つからず。。 黒く焼けた死体、腸がはみ出して悶絶している負傷者があちこちに・・、まさに修羅場です。 そして傾いた武蔵は遂に沈没の時・・。艦長も艦と共に沈むことを選択します。 2隻の駆逐艦、「清霜」と「濱風」が微速で近づき、 海に飛び込んだ武蔵の生存者を救出します。 しかし日も暮れ、重油の漂う波間で沈んでいく者も・・。 それにしても海軍兵なのに「泳げないんです」っていうのが結構、居るんですね。 結局、2400名の乗員のうち、約1000名が戦死。 主役である「武蔵」はこの下巻の前半で沈没してしまいますが、本書はまだまだ続きます。 姉妹艦「大和」の海上特攻による最期、また彼らを救った駆逐艦「清霜」と「濱風」のその後。 そして武蔵の生残りたちの終戦まで。 コレヒドール島に上陸した生残りたちのうち、420名が帰還組に選ばれて 「さんとす丸」で出航しますが、米潜水艦アトゥールに雷撃されて沈没・・。 年が明け、昭和20(1945)年になっても武蔵の生残り、700名はフィリピンの地に残留。 そこへ米軍が上陸したことで、少ない食糧で行軍を強いられます。 しかし米兵が入らない山の中で行方不明になる者が出始めます。 フィリピン・ゲリラの仕業と考えたものの、死体が見つからないことから 「ジャパン・ゲリラ」の仕業であると悟るのです。 所属部隊から離脱した一匹狼の陸軍兵で、単独で行動している日本兵を襲い、 殺害して食料を奪うだけではなく、身体を切り取って食用にしている・・。 武蔵乗員だった川口兵曹も臀部から太腿にかけての肉がゴッソリと切り取られた姿で発見され、 ある日、森の中から血色の良い陸軍上等兵が突然姿を現します。 「人間の肉っていうのは、うまいものですよ。ちょうど鶏肉みたいな味がするんですよ」。 眼を細めてそう語る「ジャパン・ゲリラ」。人間ではなく、すでに獣です。 またあるときに出会った「ジャパン・ゲリラ」は、悪びれる様子もなく 「兵隊を殺して、その肉を喰ってます。でも病人はやりません。病気が怖いから・・」。 さらに追い打ち・・。 「男ばかりで、女を喰ったことないから、今度いっぺん喰ってみたい・・」。 いや~、恐ろしいですね。。ほとんど「ゾンビ自衛隊」です。 ちなみにナチスでもゾンビ化するのは定番のキャラクターですが、 「ナチス・ゾンビ 吸血機甲師団」が最高です。。もちろん、観てません。 最後には著者の「覚書」の章で、本書の完成までの経緯が書かれています。 もともとは武蔵の元乗組員のインタビューを中心としたドキュメンタリー映画として製作され、 平成3年に公開されていたそうです。DVDも出てますね。 その後、本書の執筆を勧められて数年の歳月をかけてようやく完成。 本書は「軍艦武蔵」というハードウェアよりも、それにまつわるエピソードに 主眼が置かれていたように感じました。 ヴィトゲンシュタインのように日本海軍について全くのシロウトでも楽しく読めましたし、 端折りましたが、「第三号艦」で空母となった「信濃」についても触れています。 あの「桜花」を乗せて・・って話ですね。 やっぱり「空母「信濃」の生涯―巨大空母悲劇の終焉」も読んでみたくなりました。
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