「被害者の少女は、福本の隠し子でした。 母親は福本の大学時代の同級生で、東京の青山でブティックを経営している沢口栄子という女性です。 沢口さん、昨日東京から署まで来られまして、遺体を見て、確認されました。 間違いなく、自分の娘の絵里香だと」 毛利は答えた。 「じゃあ、絵里香さんは、父親の福本さんに会いに、京都まで、来てたってことですか?」 「はい、そのようです。 福本は絵里香さんを認知していて、それで定期的に父親に会いに来てたんだそうです。 それをホテルの従業員は少女買春と勘違いしたんでしょう。 沢口栄子さんは福本の大学時代の恋人で、福本とは卒業後結婚するつもりでいたのに、福本の家の反対でそれが叶わず、別れたんだそうです。 それが同窓会で会って、再び……ってことじゃないでしょうか。 沢口栄子さんは、絵里香さんを身籠った時に、堕そうかと悩んだそうですが、福本がどうしても生めと言うから生んだところ、認知までしてくれた。 で、奥さんとの間で、ひと悶着あるかと、心配したそうですが……案外、何事もなく済んだ。 それがこんなことになって、かなり取り乱しておられました。 沢口さんは独身で、絵里香さんは唯一の子供さんのようです。 お気の毒に……」 毛利の顔は曇っていた。 「ということは……ホテルのマネージャーの話で、亡くなられたお二人は仲睦まじい様子だったということでしたから、福本さんを絵里香さんが突き落とした可能性はゼロと言うことですね。 ところで、絵里香さんの死因は、何でしたか?」 佑太が訊くと、毛利の顔に驚きの色がよぎった。 「あのう、安藤先生は、西都キャピタルホテルのマネージャーからすでに情報をお聞きになっておられたのですか?」 「いえいえ、それは唐沢さんが」 「そうでしたか……あっ、そうそう、死因でしたね。 死因は、溺死です。 ですが、その前に首を絞められています、首に索状痕がありましたから。 多分、首を絞められ、意識が無くなったところを川へ突き落とされた。 そういうことではないかと。 これで、事件は他殺だということに」 「そうですか。 で、絵里香さんの死亡時刻は、分かってますか?」 佑太は訊いた。 「三日前の午後八時過ぎから十一時の間という検視からの報告でしたが……」 「と言うことは……福本さんの死亡時刻よりは前と言うことですね」 「そうです。ですから……目撃者のカップルが聞いたと言う、福本と言い争っていた女の声は絵里香ではない、そういうことになります」 「では、そのカップルは、絵里香さんが川へ落ちた時の水音は、聞いてなかったのですか?」 「ええ。 ですが……カップルがこの正面橋の下に来たのは……夜の十一時過ぎなのです。 ですから……」 「聞いていなくても、不思議ではない、そういうことですね。 じゃあ、その前に、誰かこの辺りにいて事件を目撃した、あるいは水音を聞いた人はいないのですか?」 「それは、今、捜している最中です。 もし、この橋から落とされたのなら、目撃者がいる可能性があると思いますから」 毛利は答えた。 続く
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