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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第21回)

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 翌朝、佑太と杏子は、朝食を早めに済ますとすぐに、鴨川にかかる正面橋へと向かった。   彼らが着いた時、正面橋下の河原には多数の捜査員の姿が見え、橋の周辺にはカメラマンを含め報道関係者の姿もみられた。 「何か見えます? 事件に関係したこと……」  杏子が小声で訊いた。 「いや。 それに、今はまだ見ない方が、いいような気がする……ここで意識を集中したら、長い歴史の中で起きた、血なまぐさい出来事の数々が、折り重なって見えてくるような気がしてね」 「そうですね。 私でさえ、何かを感じるくらいですから……あらっ、あれは唐沢さんと美香さんじゃないかしら。 ほらっ」  佑太が、杏子の指差す方を見ると、橋下の河原に、捜査員に混じって唐沢と美香の姿が見えた。   杏子が手を振ると、美香がそれに気付いたのか手を振り返してきた。 そして、傍の唐沢に何か言葉をかけた。 すると唐沢は、佑太たちの方を見上げ頭を下げると、隣の捜査員のひとりに何か話しかけたが、まもなく河原から橋の上へと上ってきた。 「お早うございます。 いいところへ来ていただきました。 あつかましいお願いですが、私の先輩に会っていただけませんか? 先輩は京都府警の捜査一課の警部をしているのです。 如何ですか?」  唐沢は、挨拶もそこそこに、唐突な頼みごとを告げた。 「唐沢さんの先輩……ええ、いいですよ、お会いしましょう」  佑太は、迷わず答えた。  土手の遊歩道から始まる細い坂道を下って河原に降りると、多数の捜査員が動いていたが、笑顔で迎える美香の傍にひとりの男がいた。 「こちらが大学時代のサークルの先輩、毛利警部です」  唐沢が佑太に男を紹介した。 毛利警部は頭を下げたが、表情は硬かった。 「先輩、こちらが先日お話していた、プロファイリングのプロフェッショナル、安藤佑太先生です」  唐沢が佑太を毛利に紹介すると、 「安藤です。 初めまして」  佑太は頭を下げた。 「安藤……安藤さん……そう言えば、以前、警察庁長官をしておられた安藤総一郎さんって方がおられましたが……」 「ああ、それは僕の父です。 若いころ京都府警のどこかの警察署で署長をしていたはずですが……」 「そうでしたか……唐沢、お前、早く言えよ。 元警察庁長官の御子息なら……」  毛利の顔から先程までの硬さは消えていた。 「ええっ、そんなこと言われても……ところで、先輩、少女の遺体の身元、間違いないのですか?」 「ああ、間違いない。 福本が買春してた証拠なんか、なかった。 あれは、ホテルの従業員の誤解から出たデマだな」  毛利がそう言うと、 「あのう、少女って、七條大橋下で見つかった被害者ですよね。 それで、身元はわかったんですか?」 佑太は訊いた。                                             続く


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