仕事で大学病院を訪れた上原尚哉は、高校時代の同級生で外科医になっていた久住廉との再会に狼狽する。なぜなら、かつて心を通わせながらも、ある事情で尚哉が裏切り、別れた相手だったからだ。久住は屈託なく接してきたが、二人きりになると態度を豹変させ、脅すように「償い」を求める。身体を差し出せ、と。別れてからも久住を想い続けていた尚哉は、心を痛ませながら応じるが…。 再会愛。昼メロ調を目指したとのことですが、切なさはあっても重くてドロドロした風ではないです。 基本、相思相愛でアレもコレも好きだからだよねぇと思うと、素直に通じ合えればほっとします。表題作とその後の「幸福の在処」と「運命の人」が入ってますが、そっちには二人だけでなく家族の問題も入ってきて。家族だという甘さと身勝手さが、うん、なかなかな。 受がもちょっと自分の仕事にこだわりがあるとよいかな。 ★★☆ だが本当にこんなことが償いになるのかと問いかけられれば、久住の中にも疑問が残る。それでも久住は、尚哉を追い詰める手を止めようとはしなかった。 そうすることしか、もはやなにも思い浮かばなかったのだ。 穏やかな思い出話も、頭を下げての謝罪もいらない。そんなことをして意味のない関係を、いまさら尚哉との間に築きたいとも思わなかった。 「そんなの………、いつになるか分からないよ」 それどころか、そんな日が来るという保証さえないのに。 「まぁな。でもすでに九年待ったんだ。ならまた十年くらいは、いけるんじゃないか?」 だが見返してくる久住の瞳はとても穏やかで、少し尚哉と会えないというだけで、『なぜ避けるんだ』と激昂したときのような激しさはどこにもなかった。 迷いのない静かな瞳を見返した瞬間、尚哉は久住が彼なりに、本当に前向きに考えてくれていたのだということを悟った。直哉と以前、約束したように。
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