食事が終わると、唐沢夫婦は彼らが滞在するホテルへと帰っていった。 佑太も杏子と部屋に戻ったが、食事中に交わされた言葉がなかなか頭から離れなかった。 〈唐沢さんが言うように、被害者二人は男女の関係だったのか? 怨霊が果たして事件に関与しているのか? 地脈の乱れがこの事件を引き起こしているのか?〉 佑太は、浮かんでくる疑問への答えを見いだせないでいた。 「佑太さん、さっきの話、どう思います? 私は少女買春の話はともかく、京都の地脈の乱れと怨霊の話は関係があると思うんですけど……」 杏子の言葉が、佑太の思索を遮った。 「ああ、君の言う通りかもしれないね。 京都に着いた時に、何か得体の知れないものがこの地にうごめいている、そんな気がしたんだよ。 あの伊勢の内宮で会ったご老人の言葉が身に染みるような……で、事件はともかく、僕らは地脈の乱れを鎮めるために何をすべきなのか? その、答えを見つけないとね」 「そうだわ、あのお守り袋の中、覗いて見ましょうか? 私たちの助けになるって、おっしゃってたでしょう……あの方」 「ああ、そうだった。 貰ったあと、中は、まだ見てなかったんだ」 二人はそれぞれのバッグから老婆から手渡された守り袋を取り出すと中を確かめてみた。 「ええっと……この紙には……『すべては豊臣の母に始まる。東へ行き、釈迦如来の下で母に会え』……それと……これは水晶の珠だな、四色の水晶玉……黒、白、赤、そして青か……この色に、何か意味があるのか? この四色は、高松町の事件では四神獣の色だったけどな……」 佑太の手には一枚の紙切れと四個の小さな水晶玉が握られていた。 佑太は、玄武、白虎、朱雀、青龍という四神獣が謎解きのカギとなった連続殺人事件のことを思い出していた。 「君のには、何が入ってんだ?」 佑太が訊くと杏子は顔を上げた。 彼女は一枚の紙切れを手にしていた。 「私のには……『最後に、刻まれし四つの珠を持ち、伊勢の斎王たちの生まれし清き緑の前に立て。 そのとき四つの珠は熱く光りを放ち白き砂に籠り、砂は黄金の砂と変わるであろう。 その聖なる砂を清き緑の上に散りばめよ』……って書いた紙、それと白い砂が。 これに、どんな意味があるのかしら?」 「僕と君の紙切れに書かれていることには、何かつながりがありそうだね。 僕の方には『始まる』、君のには、『最後に』って言葉があるだろう。 だから、まずは、僕の方に書かれたことから始めて……君の紙に書かれたことを成し遂げる……この一連のことを成就すれば……」 「地脈の乱れは鎮まるってことに?」 「僕は、そう思うね」 佑太は四個の水晶玉を指先で触りながら言った。 「じゃあ、どうします? 明日から……」 「地脈の乱れに関係があるかどうかは分かんないけど、まずは、事件現場に行ってみよう。 そうしないと、何も始まらないような気がするからね」 佑太はそう言うと、守り袋を閉じた。 続く
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