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桜ほうさら

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宮部みゆきさん著『桜ほうさら』(PHP研究所刊)を読みました。 タイトルに”桜”とあるだけあって、ほんのり桜色のカバー、そして三木謙次さんの装画・挿画が 何ともほのぼのしたデザインですが、内容の方は、ほのぼのというだけのものではありません。 時は天保七年(1836年)、舞台は江戸深川の北永堀町にある富勘長屋。 桜の花咲く季節から、秋の楓の頃までの間のお話で、全4話構成の連作になっています。 主人公は、上総国の搗根(とおがね)藩出身の若き浪人、古橋笙之介さん。 複雑な家の事情を抱える次男の彼は、冤罪で亡くなった父のために真相をつきとめる名目で 単身江戸に来てからは、この長屋で写本作りをしながら暮らしています。 冒頭、長屋で見かけた美しい桜の精に、一目惚れしたらしき笙之介さん。 桜の精と見えたのは実際は生身の女性、仕立て屋の大店和田屋の和香さんだということが 後ほど明らかになりますが、この和香さんは、理由あって引きこもりをしているお嬢様。 でも、この出会いを機に気持ちが外向きになっていき、笙之介さんの元に持ち込まれる 厄介事を協力して解決していったりするうちに、二人の仲も近付いていきます。 優秀で強い兄と、その兄しか眼中にないプライドの高い母は、出世のため画策を続けますが それに反発する心優しい笙之介さんは、母に命じられ江戸に出たものの、探索に気が乗らず。 ただ、母親のつてで、切れ者の江戸留守居役・坂崎重秀さん(俗に東谷様)を頼るにあたり さまざまな人と出会い、交流を深めていきます。 そんな中、思いがけず父の死の真相を知ることとなり、その真実がまたとんでもないものなので それまで割にのほほんとしていたのが、ここから話は急展開。 笙之介さんの周囲が一気に動き始めます。 御家騒動がらみというのは当初から察しがつくのですが、それ以前に家族の問題があって これはまさかの悲劇で終わるのでは・・・と途中不安になりました。 でも、大団円ではないものの、一応ある程度まるくおさまった、という感じの結末を迎えます。 もともとが屈託を抱えていたので、このくらいは仕方ないかなという気も。 一度死んで新たな人生を生き直す、なんて、お父さんの”笙”の名にこめた想いはどうなるのか ひそかに気になりますが、それより兄の今後のことを案じるべきでしょうか。 決して後味が悪いわけではないのですが、終盤が急展開で思いがけない方向に進むので 途中まで抱いていた印象からすると、終わってみたら随分意外に感じました。 主人公の笙之介さんが、あまり執着しないタイプなのと、エピソードとしては様々な方向性が 盛り込まれているために、全体的なバランスが難しくなったように思わなくもありませんが でもそこは、いかにも宮部さんらしい一筋縄ではいかない流れになっていて、これはこれかと。 笙之介さんは振り回されっぱなしな印象ですが、東谷様はじめ関係者は皆、根が気のいい人達で それぞれが逆境の中でもなんとか道を模索しようとしている点が好ましい。 そして、救荒録の件を強調しているのは、”今”らしい感じがします。 ちなみに、本タイトルは、いろいろあって大変だという意味の甲州の言葉「ささらほうさら」を 和香さんがもじって「桜ほうさら」と称したもの。 ところで、作品中に登場する”起こし絵”は、今でもカードなどで見かけますね。 自分で作る(設計する)のも楽しそうです。

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