- 堀辰雄
- 定価:500円
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サイトでは、約3分間のサンプル再生もできて、朗読の雰囲気が分かります)
★ あらすじ
主人公の婚約者節子は肺を患っていた。1930年代、その頃は効果的な治療方法もなく、"空気のいい"土地(高原など)に建てられたサナトリウムで療養するしかなかった。かくして節子もサナトリウムに入院することになり、同じ病を持つ主人公も一緒に移り住む。K村(軽井沢)の美しい自然の中、二人は静かに、静かに愛に満ちた日々を送ることとなった。
だが、節子の病状は思わしくなく、回復よりは一歩ずつ死に近づいていく状況だった。院長からは「院内で二番目に重症」と言われていたが、ある日、最も重いと思われる十七号室の患者が亡くなった。次の順番は。。。
節子の父親が見舞いに来るも、その気疲れからか、父が帰った後に症状が悪くなってしまう。そして冬を迎え、節子はさらに弱々しくなっていく。主人公は、この二人の日々を日記に綴り、物語としてまとめる構想を立てた。だがそれは、すでに「結末」を自分が思い描いていることでもあった。
(エピローグとして、)三年ぶりに主人公がまたK村を訪れ、山小屋で過ごす。リルケの「鎮魂曲(レクイエム)」を読んでいると、風が冬枯れの木々の枝をゆらす音が聞こえてきた。
★ 感想
学生の頃に読もうと思ったが途中でやめてしまった。あまりにも感傷的な話なので、その頃の自分には耐えられなかったのだろう。ジブリの映画でリバイバルブームになっている今、オーディオブックで出ていることを知り、これならばと思い買い求めた。結果、正解だった。静かなBGMとともに、ゆったりとした語り口の朗読はこの作品にとてもよく合っていた。
若い女性が肺病でサナトリウムでの療養を余儀なくされる。それだけでもう、薄幸の美女だの滅びの美学といったものが連想される。まさにそんな話ではある。「恋人が死の病に冒され、そうなってやっと相手の大切さが分かった」なんて話は山のようにある。携帯小説はそればっかりなのじゃないだろうか。
だが、この作品はそんな話をストレートに描いているのにすんなりと受け入れられた。奇をてらったところがなく、ドラマチックなシーンも出てこない。静かな時の流れと風の音だけだ。死の場面さえ、描かれていないのだから。
夏の終わりによむのにいい一冊でした。いや、朗読をゆっくりと聴くのも良かったですよ。本当なら軽井沢などの避暑地でのんびりと読みたかったな。
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