* 乱反射, 貫井徳郎, 朝日新聞出版, 9784022646385 貫井の日本推理作家協会賞受賞作である。といっても、本作は決して推理小説ではない。「愚行録」を読んだことがあるなら、きっとピンとくる、そういうカテゴリの作品だ。 冒頭から、互いに全く関連性のない人物たちの日常がひたすらに描かれる。この日常行為が最終的に悲劇につながる、という全体としての仕掛けなのだが、、、いかんせん、この登場人物たち、ごく一部を除き、意識やら行為やら、ちょっと目を覆いたくなるほどあまりに愚かとしか言いようがない。他人のふり見て我がふり直さない者、あまりに主体性のない愚者、極端に社会的視野の狭い者などなど、読んでいてこれほど気分が悪くなるものも珍しい。貫井自身、このような人間と人間性を憎んでいるのでは、とも思えるほど。 終盤に差し掛かって発生する悲惨な事故。そのあとは、ある意味、お決まりの流れに従って、きわめて残念な結末に至る。 個人的にはエピローグ的なつけたしは不要とも思えたが、今回、貫井はそこまで徹底的に鬼にはなれなかったのかもしれない。 本作を読み終えた読者は皆、自分の胸に手を当てるだろう。現代社会への警句として受け止めてよい。本作は決して推理小説ではない。
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