唐沢が目覚めた時、隣で寝ていた妻はすでに起き出し、テレビのニュースを聞きながら、ドレッサーの前で化粧をしていた。
「もう八時過ぎてんのよ、信吾、早く起きてよ」
「何言ってんだ。俺はさ、お前に、ベッドから蹴り落とされて、寝直したんだぞ。 それで……えっ、ええー、死体が上がったって、十五歳から十八歳くらいの若い女性? それって、もしかすると……えりか、あの福本と会ってた少女(こ)か?」
唐沢の眼は、ニュースを流すテレビの画面に釘づけになっていた。
ニュースによると、早朝ウオーキング中の老人が、七条大橋の橋げたに白い布切れのようなものが引っかかって浮いているのに気づいて近づいてみると、若い女性の死体だったということだった。
「一昨日の夜、ホテルのレストランで一緒に食事をしていた福本洋平と少女が、同じ場所で死亡してたってことか。 毛利先輩、今ごろ、忙しくなってんだろうな」
唐沢は、昨日会った毛利の顔を思い出していた。
「信吾、この雑誌に、地元のセレブを紹介する記事が出てんだけど……ここに、福本財閥ってあるの。 これって、害者の福本洋平さんの実家のことじゃないかな」
「福本って名前、京都に一軒だけってわけじゃねーだろう。福本洋平の実家とは限んないんじゃないのか……」
「でもさ、ほらっ、この記事のよるとさ、華麗なる一族福本家、総帥福本一郎氏、長男洋平氏は洛北大学教授って。 へえー、姉がひとりに妹三人、女ばかりが残ったってことか。 洋平氏には奥さんと子供は大学生の長女と高校生の長男。財閥なんだから……財産って、すごいんじゃないかな」
「おい、はしたねーこと言うなよ、お前さ、よだれ垂れてんじゃねーか」
「えっ」
美香は指を口元にあてた。
「よだれなんて、出てないよ」
「俺が言ってんのは、心のよだれってことだよ。 財産、財産なんて騒いでウゼ―ってことさ」
「あっ、ごめん」
美香は素直に謝った。
続く
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