「首を切ったのは鋭利な刃物、たぶんナイフかな?……麻酔かなんかで眠らせてやったんじゃないかな……」 美香は殺害の手口を推理すると立ち上がった。 「これって、府警の人に知らせといた方がいいよな、よしっ」 唐沢が声を張り上げ手を振ると、一番近い所にいた中年の捜査員が駆け寄ってきた。 「どうされ……あっ、猫の死骸どすな、それ、朝から気いついとりました。 えらい殺し方でっしゃろ。ここは六条河原やさかい、昔の処刑のまねでっしゃろか、猫まで、こないな殺され方されて……これ、わてが、あとで片づけときますから。 毛利警部のお知り合いの、帝都警視庁の方どすな。 気いつけてもろて、ほんま、ありがとさんどす。では、ごゆるりと、京都見物していきなはれ、ほな」 中年の捜査員はそう言うと、先ほどまで遺留品を探していた場所へと戻って行った。 「猫の首切りとは、なんか、わけありだな。殺されたのはこの数日のようだから、もしかしたら事件に絡んでいるかもな。 目撃者が嗅いだという血の匂いは……これかな? さあ、今日は事件のことはこれくらいにして、ホテルに戻るとするか」 「そうだね、こんな空気が淀んだとこに長居は無用、戻ろう、戻ろう」 二人は再び歩き出した。 唐沢はその夜、夢を見た。 彼は橋の上にいた。見覚えのある橋だった。 〈これは、正面橋だ!〉 周りを見回しても誰もいない。 橋の欄干から川を覗きこんだ。 すると、後ろから誰かが彼の背中を押した。 〈誰だっ?〉 振り向く間もなく、唐沢の身体は欄干を越えていた。 〈俺、死ぬのか?〉 そう思った途端、身体に衝撃が走った。 〈オ、オダブツか……〉 だが、唐沢は立ち上がって足元を見ていた。 〈俺が倒れてる! 頭から血が……死んだのか? じゃあ、俺は幽霊か?〉 河原に倒れているのは確かに唐沢だったが、なぜか、唐沢の意識は、倒れた自分の身体を見下ろしていた。 彼は河原を歩き出したが、すぐに右手に何かがいるのを感じた。 見るとそれは三匹の猫だった。猫は唐沢の方をにらんでいたが、見る間に六個の目は赤く光り出した。 そして、首の辺りに白く光が見えたかと思うと、しだいに広がって光の輪になった。 まもなく光の輪から血しぶきが上がり、三匹の猫の首は落ちて転がったが、すぐに起き上がりこぼしのように立つと、赤い目で再び唐沢をにらんだ。 〈化け物だ!〉 彼は猫の首を避けるように河原を急ぎ足で歩いて行った。 続く
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