15:37:42 komaba-nihon-kindai-bungakukan 08/17/2013
数を抱いて
ことばの、あるいは竃(かまど)の
決して湿気ることのなかった残像をどうしよう
選ばれる彗星が一つもないように
光とみどりの斑を
あなたが踏んでゆく
ぼくはいま歯が奇麗だよ
何光年かかっても帰るさ
君のところへ
そうだ
あれはパンの粉
あれは乾いた居候の
あたしはそこにいない
そう云えばさっき汚れたランニングシャツが
川を流れてきた
なんて奴だ
そう思えばいいか?
こゝろのハレルヤをきょう聴きたかった
垂れ下がる時計の針が
もう文字盤を指してないのだから
陰とみどりの斑を
ぼくは踏んでゆく
残像は起き上がり
木造の優しさを開けながら
頻度を減らしている
呼吸したり
話しかけたりする数を抱いて
ほお骨に触る
帰らないこゝろがどこにもないように
ことばの、あるいはユーラシア大陸の平たく小さな墓石の上を*
何もできないけれど
あなたは祈りながら過ぎてゆく
帰らないことばだけが
あなたを過ぎてゆく
*戸井十月。2013年7月28日、肺癌のため東京都内の病院で死去した。享年64歳。ご冥福をお祈りいたします。