ケヴィン・ダットン/著 小林由香利/訳
出版社名 : NHK出版
出版年月 : 2013年4月
ISBNコード : 978-4-14-081602-8
税込価格 : 2,520円
頁数・縦 : 317,32p・20cm
■サイコパスは最高のパス
サイコパス、それは凶悪な犯罪を犯す者たちに備わるある種の人格的欠陥であると認識されているかもしれない。しかし、サイコパス的特徴は、社会で成功するための重要な要素でもある。犯罪に向いさえしなければ……。たとえば、アメリカの歴代大統領の多くがサイコパス試験で優秀な成績を収め(るであろうし)、キリスト教の聖人や仏教の高僧はサイコパスの能力を十分に発揮している。スパイや特殊部隊の隊員は、サイコパス度が高いほど成功を収める確率も高くなる。
本書では、サイコパスについて総合的に考察し、サイコパスがもたらす正の側面に光を当てる。進化の過程で正当に温存されてきた人間の性格のひとつで、社会の発展に貢献してきた、というわけだ。サイコパスは、人生の成功につながる最高のパス(通行証)なのである。
確かに、欧米では、サイコパスが社会を発展させるのに寄与してきたかもしれない。しかし、日本ではどうか? 欧米に比べて、サイコパスと思われる人物が圧倒的に少ないように思われる。歴史上では、織田信長がそうだろうか? 坂本龍馬はどうか。個人が突出することの少ない日本社会では、彼こそサイコパスであるという人物がパッと思い浮かばない。それが農耕民族、日本人の特徴だろうか。
【目次】
1 サソリのひと刺し
2 サイコパスとは何者なのか
3 闇に潜む光
4 人生で成功するヒント
5 サイコパスに「変身」する
6 七つの決定的勝因
7 正気を超える正気
【著者】
ダットン,ケヴィン Dutton, Kevin
1967年、ロンドン生まれ。心理学者。ケンブリッジ大学セント・エドマンズ・カレッジのファラデー科学・宗教研究所を経て、オックスフォード大学実験心理学部教授。英国王立医学協会およびサイコパシー研究学会会員。さまざまな「社会的影響」の研究における第一人者。
小林 由香利 (コバヤシ ユカリ)
翻訳家。東京外国語大学英米語学科卒業。
【抜書】
●NEO人格目録(p68)
NEO人格目録……米国立衛生研究所(NIH)のポール・コスタおよびロバート・マクレーの研究により、標準化された人格テスト。240項目。
人格のビッグファイブ=OCEAN
・Openness to Experience:経験に対する開放性/知性
空想的←→現実的
変化を好む←→慣例を好む
独立心が強い←→周りに合わせる
・Conscientiousness:誠実性
几帳面←→ずさん
慎重←→軽率
自制できる←→衝動的
・Extraversion:外向性
社交性がある←→引っ込み思案
楽しいことが好き←→まじめ
情が深い←→よそよそしい
・Agreeableness:協調性
優しい←→冷たい
人を疑わない←→疑い深い
協力的←→非協力的
・Neuroticism:神経症的傾向
心配性←→冷静
不安定←→安定している
自己憐憫←→自己満足
●アメリカ大統領(p74)
2010年、スコット・リリエンフェルド、スティーヴン・ルーベンザー、トマス・ファシンバウアー。アメリカ大統領全員の伝記執筆者に送付した、NEO人格目録の調査を分析。
何人もの大統領が顕著なサイコパス的特性を示した。ジョン・F・ケネディ、ビル・クリントン、セオドア・ルーズベルト、フランクリン・ルーズベルト……。
●PCL-R(p84)
PCL-R=サイコパシー・チェックリスト改訂版。
1980年、ロバート・ヘアがサイコパシーを見つけるための最初の検査を発表。1991年に改訂版。
20項目の設問からなり、40点満点。それぞれの設問に「当てはまらない」0点、「やや当てはまる」1点、「完全に当てはまる」2点で採点。
臨床の場で有資格者によって使用され、データの徹底的な検証と反構造化面接(あらかじめ決めておいた質問に従って面接を進めつつ、状況に応じて質問の内容などを変える面接方法)に基づいて採点される。
ほとんどの人は2点前後。サイコパスの入門レベルは27.6点。
PCL-Rにおけるサイコパシーの4因子モデル
・対人面に関する項目
口がうまい/表面的な魅力
過大な自己評価
病的な嘘
他人をだます/他人を操る
・情動面に関する項目
良心の呵責や罪悪感がない
情動が希薄
冷淡/思いやりに欠ける
自分の行為に責任がもてない
・生活様式に関する項目
刺激を求める/退屈しやすい
寄生的な生活様式
現実的、長期的な目標の欠如
衝動性
無責任
・反社会的な面に関する項目
暴走しやすい
幼児期の問題行動
少年非行
仮釈放の取り消し履歴
犯罪の多様さ
●チンパンジーの寛大さ(p124)
霊長類学者フランス・ド・ヴァール。チンパンジーの世界では、「優位にあるものが取り分で突出するのではなく、仲間に分け与えるもので自分の地位を主張する」。
〔チンパンジーのオス同士は「寛大さ」を競う。自分より下位のチンパンジーに対する自発的な思いやりをとおして、だ。〕〔群れがエサにありつけるように冒険を冒し、自分が仕留めた獲物を気前よく仲間に分け与え、仲間が仕留めたものを取り上げて再配分する。〕
オスたちはまた、「公益」や「リーダーシップ」を張り合う。〔集団内部の協力をうながしたり、あるいは、そうしたければカリスマ性、説得力、魅力にものをいわせたりする。チンパンジーやベニオナガザルやゴリラの上位のオスはみんな、下位の者同士のいさかいを仲裁する。だが予想に反して、そうした仲裁は最初からおのずと家族や友人を優先するようになっているわけではない。ド・ヴァールが指摘するように、「平和を取り戻すには何がいちばんかに基づいて」いる。
その結果、ド・ヴァールによれば、集団は紛争解決の分散化ではなく、「集団内部で最も有効な仲裁者を探し、その仲裁者を支援して平和と秩序を確保するための広範な支持基盤を与える」。〕
●闇の三位一体(p147)
2010年、ピーター・ジョナソンと同僚、「ジェームズ・ボンドは何者か――闇の三位一体と工作員的社交スタイル」という論文。
闇の三位一体(3つの人格的特徴)……①ナルシシズムの特徴である人並みはずれたうぬぼれの強さ。②サイコパシーの特徴である恐怖心の欠如、非情さ、衝動性、スリルの追求。③マキャベリズムの特徴である不実さと、人を食い物にすること。
闇の三位一体を備えた男性は、社会の一定の階層では独力で大成功できる。〔しかも、そうした特徴の度合いが低い男性に比べて、性的な関係にある相手の数が多く、行きずりの短い関係を好む傾向が強い。
●見返り(p166)
ヴァンダービルト大学心理学・精神医学教授デーヴィッド・ゾルド。
「長いあいだサイコパスの研究は罰に対する鈍感さと恐怖心の欠如に焦点をしぼってきた」「それでもそうした特性は暴力や犯罪行為の予測にとくに役立つわけではない……これらの人びとは見返りに――ニンジンに――強く惹かれるあまり、リスクやムチへの不安に鈍感になる……潜在的脅威を察知できないというわけじゃないが、見返りに対する期待や欲求がそうした不安を圧倒する」
●七つの決定的勝因(p259)
SOS気質……追求(Strive)し、克服(Overcome)し、成功(Succeed)するサイコパス能力の組み合わせ。「七つの決定的勝因」。
〔サイコパスの七つの中核原理で、配分を間違えずにしかるべき配慮と注意を払って使えば、自分の望みどおりのものを手に入れるのに役立つ。現代生活の難題にただ反作用するのではなく対処するのに役立つ。未来の自分を犠牲者ではなく勝利者に変えることができる――卑劣な手段を使わずに、だ。〕
1.非情さ
2.魅力
3.一点集中力
4.精神の強靭さ
5.恐怖心の欠如
6.マインドフルネス……意図的に注意を今この瞬間の体験に向け続けること(p280)。
7.行動力
(2013/8/19)KG
〈この本の詳細〉
honto: http://honto.jp/netstore/pd-book_25594319.html
e-hon: http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000032914532