羊飼いの息子として、不自由な足を持ちながらも平穏で幸せな暮らしを送っていた少年オイディプースの運命は、ある日市場で初めて馬を見た日から一変する。父母のもとを離れ、たった一人で旅をする彼は放浪の戦士との出会いをきっかけに、さらに広い世界を知ってゆくが…
この間読んだデュレンマットにオイディプース伝説関連の作品が入っていたので、同じテーマの作品を手に取りました。こちらはオイディプースその人が主人公です。
読み始めてびっくり、神話じゃありませんでしたよ。神々の気まぐれとか目に見えない力とか、話題にはなっても目の前に姿を現すことはないんですから。スピンクスもライオンの体に翼のある怪物ではないし、オイディプースも実の父親を殺して実の母親と結婚してはいません。まだ神話になる前の、より現実に即した視点によるオイディプースの自伝と言えばおわかりいただけるでしょうか。実際にはこの本で語られているようなことがあって、それを元にして皆の知っているオイディプースの話が出来上がったのではないかと思ってしまう説得力があります。
古代の地中海世界を何となく神話の時代っぽいイメージではなく、考古学的研究に基づいて扱っているのが本書の面白いところですね。ポリスの形にもなっていない小さな国家の間を旅する少年が、さまざまな価値観との出会いを繰り返しながら成長し、やがて王の座に登り詰めるも転落する…大変オーソドックスな、よく知られた伝説のストーリーをなぞりながらも新鮮な再話なので、もうオイディプースはお腹いっぱいという人にも読んでいただきたいです。
著者は主に児童文学の作家として活躍した人だそうで、馴染みの薄い地味な時代をいきいきと描いている辺りは、そう言われるとサトクリフに似ているような気がします。内容は18歳未満には読ませられない感じですけれども。
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