石山勲(いしやま・いさお)さんの、『幽閉』を読みました。
例によって、感想は追記をお待ちください。
追記・感想
やはり、一番の感想としては、この物語でのストーリー展開のように、半ば無理矢理に
精神科病棟に入院させられてしまうという事例があるのだろうか、有るとしたら恐ろしい
ことだ、と思った。
コンピュータのソフトウエア開発をして、中堅の社員の位置に居た主人公。仕事が忙し
いのに充分な睡眠が摂れない状態がつづき、自ら精神科を受診する。医師の処方する薬を
飲んでも改善しない自らの状態を、二回目の診察時に訴え、その口調が医師に対して攻撃
的なまでに切迫して訴える強い口調だったことが原因で、その場で、医師や看護師に取り
押さえられ閉鎖病棟の保護室に入れられる。
あとの病院内での医師や看護師の態度、他の患者の態度については、拙作『癈人つくり
て…』に著した内容とほぼ変わらない。
医師サイドによって、退院までの期間は自由に延長させられる。患者としては、いかに
医師や看護師の心証をよくするか、ということが、退院にこぎつけるための努力すべき点
になる。そういう苦労にも、主人公は、自分を客観視し、上手く自分をコントロールして
いる。
閉鎖病棟内で起こったことが、細かく、シニフィアンの戯れのように逐一描写されてい
る。感想として思うのは、作者が精神病院入院を体験しているとしても、しているとすれ
ば尚更、そのような逐一の描写というのは自身の暗部を描くことになるので省略したり短
めに詰めて説明だけにするのが当然の心理だと思うのだが、著者は、それを敢えて書いて
いる。辛かったこともさらけ出すことにより、本作で心の昇華を試みているのだと思う。
そういう点が偉い、と思う。
有名人がテレパシーを使って、直接自分に話しかけてくる、という妄想。これが詳細に
正確に描かれている。これも、統合失調症の一つの病状の例と言えるので、この記述は貴
重だ。
最後まで、主人公が病棟内、しかもとばっちりの懲罰を受けての保護室での生活、とい
う場面を描くことで物語りは終わる。それは、退院した後に、症状をなかったことにして
人生を挽回しようとする生き方をとる主人公であることは容易に想像できるのだが、この
物語では、幻聴の事実、病棟内の他の患者の思いこみによる言動などが、突き詰めて解決
されるべき問題でありながら容易には解決しない深い病巣なのだ、ということを読者に突
きつけて、読者も思索、難儀しながら読後を迎えるという形にしているのだと思う。
たとえば、私自身にある考想伝播とは何なのか。ただの病状というだけでは決して解を
得たとは言えない。そういう難題をも読者に突きつけている。
また、社会的に仕事の立場として上司にも報告・伝達をし、部下の管理をも任される中
間管理職の地位。そういう位置にいて、非常に苛烈なストレスに晒されている人ほど、統
合失調症を発症しやすくなる。しかし、責任のかかる立場であるし、肩の力を抜くわけに
はいかないのだ。病気、入院による急激な社会的立場からの転落、も、読者も他人事とは
思えずに考えさせられる事実である。
言うまでもないが、精神科病棟入院生活が、いかに過酷かを、この物語では描いている。
医療者も読むべき本だと思う。
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