毛利は、唐沢と大学が同じ、つまりは同窓でサークルの十学年ほど先輩で三十七歳になる。 毛利は、生まれも育ちも関東なのだが、京都に憧れ京都府警に入職していた。 京都で結婚して子供が二人、今は府警刑事部の捜査一課で警部をしていると唐沢は聞いていた。
「やっかいな……と言いますと」
「害者が、市長のアドバイザーなんだよ」
「市長のアドバイザーって、元々、何をしておられた方ですか?」
唐沢は訊いた。
「洛北大学の教育学の教授だよ」
毛利は答えた。
「洛北大の教授っすか……」
「ああ、福本洋平と言って、地元では名の知られた教育学者だよ」
「へえ、でも、地元の有名人が害者だと、なんで厄介になるんで?」
唐沢は訊いた。
「そら、厄介だな。実はな、俺の勘なんだが、このヤマ、他殺の線が濃いと思うんだ」
「他殺だと……厄介なんですか?」
唐沢は再び訊いた。
「福本はな、少女買春やってたんじゃないかって噂が立ってるんだ」
「少女買春……ですか?」
「おい、声が大きいぞ。もっと小さな声で言え」
毛利は周りを見回しながら言った。
「教育学者が少女買春やったとなると……それは、確かにやばっ、いや問題ですね」
唐沢は、今度は囁くように言った。
「そうだ、問題だ。 だから厄介なんだ」
毛利の顔は曇っていた。
「先輩、ちょっと、私にその現場を覗かせてもらえませんか?」
「おおっ、お前、興味あるのか。 そうか、いいだろう。新婚さんとは言っても、お前も奥さんも、帝都警視庁の警官であることには間違いないんだからな。 じゃあ、俺についてきてくれ」
毛利警部はそう言うと、唐沢たちを伴って現場に向かった。
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