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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第1回)

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序章  京都は左京区、そこを南北に走る哲学の道は、臨済宗南禅寺派の大本山、南禅寺から足利幕府八代将軍足利義正が建てた銀閣寺まで、琵琶湖疏水に沿って続く小径である。 哲学者の西田幾多郎がここを散策しながら思索にふけったというのが、その名前の由来と言われている。  四月は半ば、今、その小径を歩く人の流れが切れ目なく続いている。 疏水の縁に咲く桜は水面(みなも)にその姿を映し、時折り吹く古都の風に花びらを散らせていた。  吉野もしだれも満開の時期は少し過ぎていたが、見る者の目を楽しませるには十分な花弁の量を誇っていた。 それが目当てのためか、歩く人々の足取りはゆっくりとしている。  その小径が程なく銀閣に届こうかという辺りに、羽根を伸ばしたような枝ぶりのしだれ桜が見え、その下で、カメラに向かってポーズをとる若いカップルがいる。 「あっ、どうも有難うございました」  小柄で痩身の男がシャッターを押してくれた人に愛想よく礼を言ったが、女の方は軽く頭を下げただけである。 女は可愛い顔をしているが、身体はそれに不釣り合いに大柄で肉付きがよかった。 「いいなあ、桜の季節の京都ってさ」  男が頭上を見上げて言うと、 「私はヨーロッパの方が、チョーよかったんだけど!」  女は男の感慨に水を差した。 「そう贅沢言うなよ、俺たちの給料を考えてみろ、海外なんて言う柄じゃないだろ。 それよかさ、このしだれ桜、見ろよ、綺麗じゃねーか。 ん? お前さ、そんなふくれっ面すんなよ、大福餅みたいになってんじゃん」 「どうせ、私の顔なんて、大福餅よ、何さ!」  女がそう言って男の肩を片手で突くと、男は数歩たたらを踏んだが、なんとか立ち直った。 「ちょっ待てよ、そんな乱暴なことやると、お腹の子供に障っちゃうぞ」 「ああっ、そうそう、そうだった、ごめんね」  男の言葉に女は表情を変えると、少し突き出た腹を、先ほど男を小突いた手で優しくさすった。 その腹に男が顔を近づけ相好をくずすと口元から前歯が二本のぞいた。                                                          続く


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