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プルースト著・吉川一義訳「失われた時を求めて5ゲルマントのほう1」を読んで

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IMG_2765.JPG 照る日曇る日第614回 スワンの娘ジルベルトに振られた主人公が一転して一方的に好きになるのは、ゲルマント公爵夫人である。美人なのか腐美人なのかも良く分からないそんな年増に惹かれてゆく心情は、私たちにはさっぱり理解できないのであるが、むしろ公爵夫人の気を引こうとして仲良くなってゆく甥のサン=ルー侯爵と主人公の関係の方が、妙に生臭い雰囲気がたちこめていて怪しい興味がわく。 怪しい興味といえばそのサン=ルーの愛人ラシェルのたたずまいで、「チボー家の人々」の主人公の恋人と同じ名を持つユダヤ系の元娼婦、現女優の立ち居振る舞いは、スワンの妻オデットのそれにそっくりだし、こういうタイプの若い美人は、いまでも恐らく巴里ポール・ヴァレリー街の隠れ家に棲息する高等娼婦としてしぶとく生きながらえているのであろう。 訳者によれば、仏蘭西で同性愛者が火あぶりの刑に処せられたのは1750年が最後。フランス革命以降は犯罪ではなくなったが、「ナポレオン法典」の公然わいせつ罪によってしばしば弾圧されたという。小説ではあやしい美女の魅力を描き、実生活では法典に怯えつつも三島由紀夫と同様秘密の男娼窟に出入りしていたプルーストの魅力の源泉は、その両性具有的世界へのあやしい引力にあるのではないだろうか。 昂然と鎌首もたげ水切ってドクダミの森に上陸せし蛇 蝶人


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