どうしてこんなに使えない機械を入れたんだ!? 1台のコピー機が社内の人間関係をあぶりだす。そして事態は思いもかけない方向に発展し…。異色に表題作に加え、朝の通勤電車に乗り合わせた人々が遭遇したある事件をそれぞれの視点から描いた書き下ろし。 アレグリアは愛称ではなくコピー機の商品名です。欠陥コピー機。どこかの書評で「読み終わった後、アレグリアが愛しくなりました」とあったのが気になり、借りてきました。道具には使う人によって多かれ少なかれ不具合や満足いかない点があったりしますが、アレグリアのそれはまさに人を見ているかのような…と思えるのは、主人公のミノベの道具に対する思い入れがあまりに強く、周りの人間よりも関係が密に見えるからかもしれません。仕事でどうしても必要な道具の不具合は改善する(される)べきではないのか、なんて考えはとりあえずどこかに置いておいて読みましょう。周囲の人どころか同じ仕事をして同じくアレグリアを使う先輩にまで受け入れては貰えないアレグリアヘの不満。積もりに積もった不満は急ぎの仕事の前のアレグリアの沈黙を経てついに…そっちに出たのか、という終わり。可笑しいような苦しいような。…複合機に飛び蹴りしたら壊れるんじゃないかな。 アレグリアのあとの「地下鉄の叙事詩」は、アレグリアとはうって変わり、満員電車の中の人の気配があまりに近すぎて気持ち悪いです。特に外には振りまかれるわけでもない悪意と、全体に漂う苛立ち。そこで浮かび上がってくる事件が……途中でやめればよかったと思わせる、執拗さが。 ★☆☆ 「いっそのこと」アダシノが口を開いた。その声はくぐもっていたが、ミノベはその一言一句を聴き逃さないように耳を澄ました。「いっそのこと、あいつを葬りましょう。この機会に」 額に汗が噴き出した。耳を疑った。 「出荷時における、致命的なエラー、ということにしましょう。僕がそう報告します」 エレベーターのドアが開いたあとも、ミノベはしばらくアダシノの言葉の意味について考えていた。メンテナンスの人間、いわばアレグリア側の人間が、どうしてそんなことを言うのかは見当もつかなかったが、ただわかったのは、アダシノもまたあの機械を憎んでいたということだった。それだけでもいい、とミノベは思った。自分はそういう人間が現れることを待っていたのだ。
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