ど~も。ヴィトゲンシュタインです。 ハンプトン・サイズ著の「ゴースト・ソルジャーズ」を読破しました。 もう4年ほど本棚に眠ったままだった本書を何気なく取り出してみました。 確か、神保町の古本まつりでやっぱり何気なく買った記憶がありますが、 2003年に発刊された411ページのナニが興味を引いたのか・・? と訳者あとがきを読んでみると、 米軍レンジャー部隊によるフィリピン・ルソン島の捕虜救出作戦を描いた一冊で、 なるほど、特殊部隊や特殊作戦というテーマに惹かれたんだと思います。 「悪魔の旅団 -米軍特殊部隊・・」とかも好きですからねぇ。 しかし本書のメイン・テーマは、有名な「バターン 死の行進」。 「南京大虐殺」に並ぶ、日本軍の残酷物語とも云われています。 米国人の著者がどのように描いているのか、突然、楽しみになってきました。 プロローグは1944年12月のフィリピン・パラワン島の捕虜収容所。 P-38戦闘機にB-24爆撃機による空襲が・・。 戦況の変化と米軍の侵攻の兆しは誰もが気づいています。 塹壕に避難していた150名の米軍捕虜に対して、航空燃料が浴びせかけられ、 日本兵が火の付いた松明を投げ込みます。 逃げる者はハチの巣にされますが、一矢報いたいとばかりに 火だるまのまま日本兵に抱きつく死の抱擁を見せる者も・・。 このような状況下で「アイ・シャル・リターン」と語っていたマッカーサー率いる米軍は、 3年前にバターン半島とコレヒドール島陥落の際に日本軍に捕えられた捕虜たちが カバナツアン収容所で飢えに苦しんでいるという情報を入手。 つい数ヵ月前にはオーストラリアの収容所で日本兵捕虜234名が集団自殺を図り、 生存者は「日本兵が捕虜になるという不名誉は、とても耐えられるものではない」と語ります。 そして捕虜に関する理念の違い・・。 このまま米軍が侵攻した場合、カバナツアン収容所の捕虜が皆殺しになるのではという懸念。 そこで特殊部隊の第6レンジャー大隊指揮官ミューシー中佐を中心に、 C中隊のプリンス大尉を突撃部隊指揮官に任命し、捕虜救出作戦が始まるのでした。 第1章は3年前の「バターン陥落」へ。 日本軍の猛攻の前に、荒れ果てたジャングルへ追い詰められた米軍。 食事といえば猫、なめくじ、ネズミ、昆虫、大蛇、そして猿・・。 まぁ、何びとであっても飢餓に陥るとこういう物を食べるんですね。 マッカーサーは脱出し、陸軍参謀総長ジョージ・マーシャルから 「降伏は断じて許されない」と釘を刺されていたエドワード・キング将軍も降伏を決断。 それにしてもマーシャル将軍厳しいなぁ・・。 しかし勝者である本間雅晴中将は第14軍としてはコレヒドール島を手に入れられなければ マニラ湾は用をなさず、この"オタマジャクシ"の形をした難攻不落の要塞を 半島の南のバターンから砲撃するために、投降した米兵を移動させる必要があるのです。 ・・・と、本文を要約して書いてみましたが、本書には地図も未掲載なので、 いろいろと調べました。コレヒドール島・・、もろオタマジャクシなんですね。。 米軍の捕虜は75マイル北にあるオードネル収容所に移送する計画が立てられ、 歩くスピードも一日平均10マイル以内、食糧と救護所も用意し、 病人は数百台の車両で輸送するという「人道的」なもの。 天皇陛下が捕虜を「不運な人々」と考え、「最大限の慈悲と優しさ」をもって接するよう 指示していたのを本間将軍自身も知っており、帝国陸軍の高潔な理念に従って扱うよう命じます。 しかしこの計画には致命的な欠陥が2つ。 1つ目はせいぜい2万5千程度と見ていた米兵が、実際には10万人に近く、 2つ目に彼らの健康状態を楽観視し、捕虜の飢えと病気の度合いは想像以上・・。 そんな敵に優しすぎる本間将軍に陸軍参謀総長の杉山元将軍は良く思わず、 無能で決断力に欠けるとして、信頼する辻政信中佐に全権を委任して送り込みます。 彼が現れるところには必ず虐殺行為が起きるといわれている人物で、 勝手に「投降者は全員射殺すべし」との命令を発するのでした。 こうして始まった「死の行進」。 4ヵ月近く戦ってきた敵と面と向かい合うと、復讐心が熱病の如く路上に蔓延し、 最後にはあっさりと降伏した米兵を憎み、勝者特有の軽蔑心に燃える日本兵の姿。 この状況では自分が全能の神であることを自覚する一部の警護兵は、 喉の渇きから列を飛び出し、泉に突っ込んだ捕虜の首を水平に切り落とすことも。。 普通の兵士なら1週間の道のりが、3週間以上かかってようやく完了。 本書では平均的な数字として、750名の米兵と5000名のフィリピン人が、 極度の疲労、病気、大量放置、あるいは純粋な殺人で命を落としたとしています。 また、バターンの砲撃地点に「捕虜の壁」を配置したにもかかわらず、 コレヒドール島からの味方の砲撃で死んだ捕虜も多かったそうです。 のちにアメリカのメディアが「バターン死の行進」の名付けたこの事件ですが、 決して意図されたものではなく、混乱と人種間の憎しみ、誤解、うだるような暑さ、 規律の乱れなど、さまざまな要素が混じり合った末の出来事と表現されています。 具体的には日本軍が兵站作業を見直さなかったのは、 計画に口を挟むことは命令を下した上官の知性を侮辱するものだ・・ という儒教文化に深く染まった日本軍の参謀や、 降伏に際して使えるトラックを破壊してしまった米兵の行為、 ガソリンに恵まれ車両に大きく依存していた米兵に対して、 長距離を早く、しかも休まずに歩くことに長けた日本兵についてこられるとの誤解など・・。 収容所への道は続きます。 途中、サンフェルナンドからは100名単位で列車に押し込まれますが、 数時間後に扉が開いた時には12名の捕虜が死んでいます。 ここの映写はまるでアウシュヴィッツ行きのユダヤ人並みの悲惨さですね。 そしてようやく辿り着いたオードネル収容所の正面ゲートには 米兵が「赤く燃えるケツの穴」と呼ぶ、旭日旗がはためいています。 衛生状態は最悪、悪臭は破滅的で、2ヵ月間で1500名以上の米兵、 15000名のフィリピン人が墓標もない墓地に埋葬されるのでした。 日本軍はこの状況に別の収容所が必要と悟ります。 そしてかつては軍事施設だったカバナツアンを収容所とし、捕虜を移動。 フィリピン最大の捕虜収容所にして、外国最大の米兵捕虜収容所が誕生。 端折りましたが、本書の構成はこのような1942年~1944年の米兵捕虜の話と並行して、 1945年1月の収容所解放作戦に向かう、レンジャー部隊の章が交互に出てきます。 そして1944年10月になると、マッカーサーの復帰を間近に控え、 日本軍は兵が本国に戻る際に、労働力となる捕虜を一緒に連れて帰ることにし、 収容所の人口はピーク時の8000名から、徐々に2000名と削減され、 いま、最終便として病人を残して米兵捕虜1600名が日本へと輸送されます。 立派な日本客船「鴨緑丸」の船倉に押し込められてマニラから出港するも、 米海軍戦闘機と急降下爆撃機の攻撃を受けて沈没・・。 リンガエン湾の激しい砲撃音が耳に届くようになったころ、 カバナツアンの収容所所長は、警備兵とともに去っていきます。 日本軍用の貯蔵庫を略奪し、栄養も回復しつつある残された捕虜たち。 しかし収容所の外に一歩でも踏み出せば、日本兵に殺されるのでは? という疑念がぬぐいきれません。 やがて日本軍の中継地点となって、捕虜の数よりも日本兵の方が多くなることも・・。 そして遂にプリンス大尉率いるレンジャー部隊が闇に乗じて収容所を襲撃。 大量の銃弾を浴びて上半身が「原子分解」する日本兵。 或いは腰から真っ二つになる歩哨。 動き出そうとしている日本軍のトラックや戦車もバズーカの餌食に・・。 過剰で猛烈な一方的銃撃が繰り広げられます。 こうして3年ぶりに味方の若く逞しい米兵の姿を見た捕虜たち。 「我々は米兵だ。あなたたちを連れ出しにやって来たんだ」 しかし、こんな状況で一悶着が始まります。 「いいや、米兵はそんな制服は着ていない」 「気にしないでください、自分はレンジャー隊員です」 「レンジャーってのは何だ?」 「いいから出ろ。つべこべ言うな!」 1945年2月、解放された捕虜たちは陸軍病院で静養し、マッカーサーも顔を見せます。 そして旧友のダクワース大佐を見つけると、「遅くなって本当にすまない」と涙を・・。 本書は2003年の発刊当時、トム・クルーズ主演、スピルバーグ監督で映画化! と謳っていたようですが、結局のところ中止になっているようですね。 その代わり2005年、この作戦を描いた「THE GREAT RAID」という映画が製作されていました。 日本未公開でDVDも出ていませんが、スカパーで放映されたそうです。 「グレート・レイド 史上最大の作戦」というショボい邦題が泣けますねぇ・・。 ちなみに映画ということだと、「バターンを奪回せよ」という映画もあります。 戦時中の1944年に製作され、主演は世界のタカ派俳優ジョン・ウェインです。 最後にエピローグとして、本書に登場した人物のその後が・・。 突撃部隊を率いたロバート・プリンス大尉は、すぐにルーズヴェルト大統領と面会。 日本軍ではカバナツアンとオードネル収容所の所長が戦争犯罪裁判で「重労働刑」に、 本間将軍はバターン死の行進を指揮したとして有罪を宣告されたものの、 命令はおろか、行進に気づいていたかさえ、検察側は証明できず・・。 本間の妻がGHQ司令官マッカーサーに特赦を求めますが、介入を断り、 1946年6月、銃殺刑に処せられるのでした。 また、虐殺行為に最も関与したとされる辻中佐はあらゆる戦争犯罪の追及を逃れ、 タイ、ビルマ、中国へと潜伏。1950年代に日本に姿を現すも、再び失踪・・。 この人は本書を読む前に知っていましたが、一体、なんなんでしょう? あ~、「ガダルカナル」に出てたんだっけなぁ。 米国人の著者は執筆にあたって日本にも3ヵ月滞在し、 バターンで戦った元日本軍兵士などとも対面して、日本人の考え方など、 多くを学んでいるようです。確かに、理性的な書き方をしている印象です。 ちょうど公開中のトミー・リー・ジョーンズの「終戦のエンペラー」はどうでしょうね? いや~、しかしいくら客観的に読もうと思っても米軍vs日本軍は難しいですね。。 例えば、旭日旗のことを「赤く燃えるケツの穴」という記述がありましたが、 そこで「ナニをっ!」とイラっとするか、「まぁ、ヤンキーらしいな・・」と苦笑いするか・・。 いままで主役が米英軍で、ドイツ軍が悪役の本は何冊か読んできましたが、 ソコはさすがに日本人ですから・・。
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