当blogの「お手軽読書感想文」は夏休みになるとのアクセスが増えます。いままで、インターネットを活用した『蟹工船』と、映画を活用した『藪の中』の2冊を取り上げました。今回はインターネットも映画も使わず、正統派の読書感想文を「手軽」に作成してみようと思います。
本の選択が難しいですね。『蟹工船』『藪の中』は、中高生にとって中身が面白いというほどではありません。今回は読んで面白いということを優先して、流通している本を取り上げてみました。青空文庫にはありませんが、文庫本で580円と手頃です。kindle版なら378円ですから、スマホでも読めます。スマホで読むと、ハイライトを使って書抜きができるので便利です。 群馬・高崎高校と茨城・日立工業が、春の選抜出場をかけて戦った1980年の高校野球秋期大会から物語は始まります。高崎高校はこの試合に勝って、センバツの切符を手にします。
高崎高校、通称タカタカは、総理大臣をふたりも輩出した群馬県有数の名門高校で、野球部創設以来甲子園など一度も出場したことはなかったわけですから、一大椿事です。『スローカーブをもう一球』は、このタカタカとエース川端君を主人公としたドラマです。
《超スローカーブのエース》
物語は、夏の高校野球が終わった1980年の9月にさかのぼります。タカタカの3番手ピッチャーだった川端くんは、3年生が現役を退いたため、いきなりエースとなります。この川端くんが主人公なのですが、彼はプロ顔負けの速球を投げる”本格派”とはほど遠いピッチャーです。体型は173cm67kgのどちらかというとずんぐりムックリで、100m走は16.5秒を切れない。投球フォームも、アンダースローからオーバースローに転向したため、オーバースローから投げて途中からサイドスローに変わるという変則型。速球もそれほど速いわけではなく、60~70kmの超スローカーブを得意とする”変則型”ピッチャー。
高崎高校、通称タカタカは、総理大臣をふたりも輩出した群馬県有数の名門高校で、野球部創設以来甲子園など一度も出場したことはなかったわけですから、一大椿事です。『スローカーブをもう一球』は、このタカタカとエース川端君を主人公としたドラマです。
物語は、夏の高校野球が終わった1980年の9月にさかのぼります。タカタカの3番手ピッチャーだった川端くんは、3年生が現役を退いたため、いきなりエースとなります。この川端くんが主人公なのですが、彼はプロ顔負けの速球を投げる”本格派”とはほど遠いピッチャーです。体型は173cm67kgのどちらかというとずんぐりムックリで、100m走は16.5秒を切れない。投球フォームも、アンダースローからオーバースローに転向したため、オーバースローから投げて途中からサイドスローに変わるという変則型。速球もそれほど速いわけではなく、60~70kmの超スローカーブを得意とする”変則型”ピッチャー。
川端はスローカーブを投げたあと、いつもニヤッと笑いたくなってしまう。ストライクが入ったときは、たいていそうだ。それは、「やった」と快哉を叫ぶ笑いではない。ざまあみと相手を嘲笑する、そいう笑いでもない。ただ、スローカーブを投げた時が、一番自分らしいような気がしている。
夏の大会までタカタカを指導した監督が辞めたため、世界史の飯野先生が監督に引っ張りだされます。この先生は、中学の頃わずか3ヶ月の野球経験があるという理由で、野球部の監督を押し付けられます。監督を引き受けてから、野村克也の本を買ってきて、敵は我に在りとかいう文言が気に入ってしまうという「監督」です。サインもバンド、ヒットエンドラン、盗塁、この3つしか出さない出せない。エース同様に監督も、甲子園に出ようかという野球部では、あり得ない”変則型”監督です。
ある試合で、サインも出していないのに盗塁が敢行されアウトとなります。何故だ、となったわけですが、監督は無意識にユニホームのその部分に触れ、盗塁のサインが出てしまったのです。
以来、飯野先生は簑島高校の名監督、尾藤監督を真似て、ベンチに座り込んで悠然と試合を見つめる監督となります。
変則型監督と変則型ピッチャーを擁したタカタカがセンバツに出場するのですから、野球部全員の感想は「それにしても、何故ここまできてしまったんだろう」。物語は、この「何故」を追って進みます。
その年(1980年)の9月の県大会がスタートします。ランナー一塁で、川端くんはバントのサインを見逃して2球見送り、やっとサインに気付いてバントを敢行。4球目のバントは、浅く守っていた一塁後方にポトリと落ちてランナー一、三塁。バントを見逃したことでヒットが出たことになります。
このチャンスにタカタカの飯野監督はどう采配を振るったのか。4回裏0-0ですから、先取点を欲しいタカタカはバントするだろうと、相手チームは警戒するわけです。ところがバントのサインは出ず、強攻策でタカタカは1点を先取し、気がついたら試合は終わっていたと相手チームに言わしめる勝利を手にします。サインを見落とした偶然と素人監督のセオリー無視とが生んだ勝利です。
《ピッチングは駆け引きだ》
で守りはどうだったかというと、川端くんはこの試合で124球中45球とスローカーブを多投します。速球の後に来るスローカーブはバッターのタイミングを外し、低めに来るカーブを叩くと内野ゴロになるようです。川端くんのカーブは、
まるで小さな子供が投げるような山なりの、カーブである。それはバッターをからかうようにふらふらとやってきて、ホームベース上を通過するときは低めに曲がりながら入ってくる。打ち気なっているバッターは、それによって気分を乱されてしまう。
・打つ気満々のバッターにたいしては、わざとニターッと笑ってあげる・投げる球は決まっていても、キャッチャーのサインに延々と首を振り続ける・投球前に余分な動作を入れる。砂をつまんで投げて、風向きを確認するなど・ピンチには、キャッチャーを呼び寄せる。会話は、「なぜオレにはガールフレンドができないのかな ?」「今、ラーメン食ったら、うまいかな?」
県大会の予選4試合を勝ち抜き、関東大会1回戦もものにします。その勝利の後、飯野先生は学校に電話をいれます。
「勝ってしまったんですよ」
すると校長の答えは
「そうか、勝っちゃったのか・・・」
タカタカは試合のある水戸で宿泊しています。1回戦に勝つと宿泊が伸び、部費が底をつくわけです。
タカタカの滞在する旅館の方も大変で、1回戦で負けると思っていたため次の予約を入れています...。
飯野先生は自宅に電話を入れます、-下着を届けてくれ。川端くんはというと、決勝戦が終わるまでの1週間分の準備をしてきたというわけです。
県大会を順調に?勝ち進み、準決勝で日立工業を下し、印旛高校と決勝戦を戦います。川端くんは、印旛高校のキャッチャー月山くんに対して闘志を燃やします。月山くんはプロのスカウトも注目する強豪打者、こちらは決勝に進出することすら奇跡に近い弱小高校の無名のピッチャーです。
2打席目、カーブをひっかけて内野ゴロ
3打席目、スローカーブの後の速球で三振
4打席目、
その指の形はこういっている-
《スローカーブを、もう一球》
センバツでのタカタカはどうだったのか?勝とうが負けようがどちらでもいいことです。「甲子園に出場するなど、考えたこともない」タカタカが甲子園に出場したというドラマがこのノンフィクションの主題ですから。
もちろん、物事は真剣に取り組まないといけないわけですが、スローカーブには、真剣、ガムシャラだけが道ではなく、ちょっと息を抜いて斜めからやってみるとうい道もあるよ、という意味が込められています。当然、スローカーブだけで通用するわけではなく、速球のなかにスローカーブを投げるから効果があるわけです。
そしてこのスローカーブが川端くんの生き方にまで係わってくることが面白いのです。「打つ気満々のバッターにたいしては、わざとニターッと笑ってあげる」たり、ピンチにキャッチャーを呼び寄せ、「なぜオレにはガールフレンドができないのかな ?」と言ってみたりする茶目っ気ですね。これはたぶん、自分に対して投げたスローカーブです。
スポーツライター山際淳司が、本書で書きたかったのは、この「スローカーブという生き方」だったとも思われます。わたしが本書を最初に読んだのは、30代でサラリーマンをやっていた頃です。"これだッ"と思って、要所要所でスローカーブを投げたわけです。ところが、わたしのカーブは曲がらず高めに浮く、単なるスローボールで、打たれました(笑。
秋季大会で優勝または準優勝という成績を残さなければセンバツに出場することはできません。『スローカーブをもう一球』は、このタカタカが秋季大会を準優勝まで勝ち抜いた「事件」を、エース川端くんを主人公に描いたドラマです。
《超スローカーブのエース》
物語は、夏の高校野球が終わった1980年の9月にさかのぼります。タカタカの3番手ピッチャーだった川端くんは、3年生が現役を退いたため、いきなりエースとなります。この川端くんが主人公なのですが、彼はプロ顔負けの速球を投げる”本格派”とはほど遠いピッチャーです。体型は173cm67kgのどちらかというとずんぐりムックリで、100m走は16.5秒を切れない。投球フォームも、アンダースローからオーバースローに転向したため、オーバースローから投げて途中からサイドスローに変わるという変則型。速球もそれほど速いわけではなく、60~70kmの超スローカーブを得意とする”変則型”ピッチャー。
物語は、夏の高校野球が終わった1980年の9月にさかのぼります。タカタカの3番手ピッチャーだった川端くんは、3年生が現役を退いたため、いきなりエースとなります。この川端くんが主人公なのですが、彼はプロ顔負けの速球を投げる”本格派”とはほど遠いピッチャーです。体型は173cm67kgのどちらかというとずんぐりムックリで、100m走は16.5秒を切れない。投球フォームも、アンダースローからオーバースローに転向したため、オーバースローから投げて途中からサイドスローに変わるという変則型。速球もそれほど速いわけではなく、60~70kmの超スローカーブを得意とする”変則型”ピッチャー。
川端はスローカーブを投げたあと、いつもニヤッと笑いたくなってしまう。ストライクが入ったときは、たいていそうだ。それは、「やった」と快哉を叫ぶ笑いではない。ざまあみと相手を嘲笑する、そいう笑いでもない。ただ、スローカーブを投げた時が、一番自分らしいような気がしている。
夏の大会までタカタカを指導した監督が辞めたため、世界史の飯野先生が監督に引っ張りだされます。この先生は、中学の頃わずか3ヶ月の野球経験があるという理由で、野球部の監督を押し付けられます。監督を引き受けてから、野村克也の本を買ってきて、敵は我に在りとかいう文言が気に入ってしまうという「監督」です。サインもバンド、ヒットエンドラン、盗塁、この3つしか出さない出せない。エース同様に監督も、甲子園に出ようかという野球部では、あり得ない”変則型”監督です。
ある試合で、サインも出していないのに盗塁が敢行されアウトとなります。何故だ、となったわけですが、監督は無意識にユニホームのその部分に触れ、盗塁のサインが出てしまったのです。
以来、飯野先生は簑島高校の名監督、尾藤監督を真似て、ベンチに座り込んで悠然と試合を見つめる監督となります。
変則型監督と変則型ピッチャーを擁したタカタカがセンバツに出場するのですから、野球部全員の感想は「それにしても、何故ここまできてしまったんだろう」。物語は、この「何故」を追って進みます。
その年(1980年)の9月の県大会がスタートします。ランナー一塁で、川端くんはバントのサインを見逃して2球見送り、やっとサインに気付いてバントを敢行。4球目のバントは、浅く守っていた一塁後方にポトリと落ちてランナー一、三塁。バントを見逃したことでヒットが出たことになります。
このチャンスにタカタカの飯野監督はどう采配を振るったのか。4回裏0-0ですから、先取点を欲しいタカタカはバントするだろうと、相手チームは警戒するわけです。ところがバントのサインは出ず、強攻策でタカタカは1点を先取し、気がついたら試合は終わっていたと相手チームに言わしめる勝利を手にします。サインを見落とした偶然と素人監督のセオリー無視とが生んだ勝利です。
《ピッチングは駆け引きだ》
で守りはどうだったかというと、川端くんはこの試合で124球中45球とスローカーブを多投します。速球の後に来るスローカーブはバッターのタイミングを外し、低めに来るカーブを叩くと内野ゴロになるようです。川端くんのカーブは、
まるで小さな子供が投げるような山なりの、カーブである。それはバッターをからかうようにふらふらとやってきて、ホームベース上を通過するときは低めに曲がりながら入ってくる。打ち気なっているバッターは、それによって気分を乱されてしまう。
・打つ気満々のバッターにたいしては、わざとニターッと笑ってあげる・投げる球は決まっていても、キャッチャーのサインに延々と首を振り続ける・投球前に余分な動作を入れる。砂をつまんで投げて、風向きを確認するなど・ピンチには、キャッチャーを呼び寄せる。会話は、「なぜオレにはガールフレンドができないのかな ?」「今、ラーメン食ったら、うまいかな?」
県大会の予選4試合を勝ち抜き、関東大会1回戦もものにします。その勝利の後、飯野先生は学校に電話をいれます。
「勝ってしまったんですよ」
すると校長の答えは
「そうか、勝っちゃったのか・・・」
タカタカは試合のある水戸で宿泊しています。1回戦に勝つと宿泊が伸び、部費が底をつくわけです。
タカタカの滞在する旅館の方も大変で、1回戦で負けると思っていたため次の予約を入れています...。
飯野先生は自宅に電話を入れます、-下着を届けてくれ。川端くんはというと、決勝戦が終わるまでの1週間分の準備をしてきたというわけです。
県大会を順調に?勝ち進み、準決勝で日立工業を下し、印旛高校と決勝戦を戦います。川端くんは、印旛高校のキャッチャー月山くんに対して闘志を燃やします。月山くんはプロのスカウトも注目する強豪打者、こちらは決勝に進出することすら奇跡に近い弱小高校の無名のピッチャーです。
2打席目、カーブをひっかけて内野ゴロ
3打席目、スローカーブの後の速球で三振
4打席目、
その指の形はこういっている-
《スローカーブを、もう一球》
センバツでのタカタカはどうだったのか?勝とうが負けようがどちらでもいいことです。「甲子園に出場するなど、考えたこともない」タカタカが甲子園に出場したというドラマがこのノンフィクションの主題ですから。
もちろん、物事は真剣に取り組まないといけないわけですが、スローカーブには、真剣、ガムシャラだけが道ではなく、ちょっと息を抜いて斜めからやってみるとうい道もあるよ、という意味が込められています。当然、スローカーブだけで通用するわけではなく、速球のなかにスローカーブを投げるから効果があるわけです。
そしてこのスローカーブが川端くんの生き方にまで係わってくることが面白いのです。「打つ気満々のバッターにたいしては、わざとニターッと笑ってあげる」たり、ピンチにキャッチャーを呼び寄せ、「なぜオレにはガールフレンドができないのかな ?」と言ってみたりする茶目っ気ですね。これはたぶん、自分に対して投げたスローカーブです。