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もうじやのたわむれ 303

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 補佐官筆頭の後ろについて審理室を出ると、廊下に賀亜土万蔵警護係長と逸茂厳記氏に発羅津玄喜氏と云う、見慣れた顔が揃っていて、拙生に夫々お辞儀をするのでありました。 「おや、これはどうも」  拙生は手を上げて答礼するのでありました。それから、準娑婆省に同行してくれると云う二鬼の警護官が屹度、この若手元気コンビであるのだなと推察するのでありました。 「この度は慎にとんだ事でございました」  賀亜土万蔵係長がしめやかな声で拙生に云うのでありました。「全く急な事で、私もびっくりしているところです。何とお悔やみを申し上げて良いのやら、・・・」 「ああこれはどうも。ご親身な弔辞みたいな云い草、痛み入ります」  まあ、こちらの世に生まれそこなったのでありますから、物悲しそうな顔つきで、そう云う挨拶の交わし方をして悪い事はなかろうなと、拙生は自問自答するのでありました。 「亡者様の準娑婆省行きには、この逸茂厳記と発羅津玄喜がご同行いたします。もう顔馴染みでしょうから、亡者様も気楽かと思いましてこう云う人選、いや鬼選をいたしました。どうぞ道行きではこの二鬼に、遠慮なく何なりとご用命ください」  賀亜土係長がそう云うと元気コンビの二鬼が前に出るのでありました。 「前の護衛の時と同様に家来になった了見で、護衛は申すまでもなく、その他の様々なご用事も元気に務めさせて頂きますので、どうぞ宜しくお願い致します」  逸茂厳記氏がキリリと表情を引き締めて云うのでありました。 「有難うございます。お二鬼に同行して頂けるのなら、こんなに心強い事はありません」  拙生は満足気に笑い返すのでありました。 「ええと、私は未だ色々用意がありますから、それを超特急で片づけて、後ほど船の出航時間までには港の方に参ります。亡者様はこの護衛二鬼と一緒に、一足先に港の方にお越しになっていてください。万事この二鬼が心得ておりますから、何のお気遣いもなく」  補佐官筆頭はそう云って拙生に一礼すると、慌ただしく廊下を建物の奥の方に駆け去って行くのでありました。昨日のカラオケ宴会の席で、発羅津玄喜氏の彼女の藍教亜留代女史が、高校生の頃に在った校則の話しの中で「あたしんところは、廊下は走るな、くらいかな。まあ、走ってたけどさ」なんと云っていたのを、ふと思い出すのでありました。 「さて、ではくれぐれも疎漏のないように宜しく頼むぞ」  賀亜土係長が元気コンビに訓戒を垂れるのでありました。元気コンビは揃って、大学の体育会の学生のような硬いお辞儀をしながら「押忍!」と返事をするのでありました。 「それじゃあ、私もこの辺でお別れと致します。どうぞこの先の向うの世への旅路が、安楽であります事をお祈り致しております」  賀亜土係長はそう云って瞑目合掌すると、力なく一礼して廊下を去るのでありました。 「それじゃあ早速、港の方に参りましょうか」  逸茂厳記氏が廊下の、補佐官筆頭や賀亜土係長が去った方とは反対側に掌を差し示して、拙生の歩行を誘うのでありました。 「またもこうして、お二鬼とご一緒することになるとは、実に嬉しい限りですなあ」 (続)

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