パリ15区の路上で、アレックスという女性が誘拐される。何者かによってバンに無理やり引きずり込まれ、人気のない建物に連れて行かれ、監禁されてしまう。パリ警視庁の警部カミーユは、事件の知らせを受けて、捜査に着手するが、調査は難航する。犯人の正体も不明なうえ、誘拐された女性の身元も判然としなかったのだ。カミーユはわずかな手がかりから、その足取りを追うことに……。 「このミステリーがすごい」とか、いろいろなミステリー賞で高い評価を受けていたので、気になって読んだ本。 たしかにスピード感があって巻を措く能わずといった感じだし、謎解きミステリーとしてよくできていて、高評価もうなずける内容であった。 最初は、単純な誘拐ものに思えるのだが、読み進めていくうちに徐々に様相が変わってくる。犯人の正体が謎というだけでなく、実は被害者のアレックスに方にも秘密があってという、幾重にも織り込んだ謎が面白い。 「探偵スルース」という映画に少し構造が似ている印象。3幕あって、ひと幕ごとにどんでん返しというか、読者をひっかけるしかけが用意されている。ひと幕ごとにアレックスの立場が変化していくのだ。 少しグロいところあって苦手な雰囲気でもあったが、ミステリーとしては楽しめた。カミーユ警部の推理も鋭くて、わずかな手がかりがない中で、犯人の心理を読み解きながら、被害者の足取りを推理するところなどは、推理ものとしてもよくできていた。 フランスから現れた新人ミステリー作家ルメートル。フランスはもともとミステリーが盛んな国だが、その伝統を引き継いだ逸材が現れたものだ。これからどんな作品を書いていくのかも楽しみになった。
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