上記書籍中、特別インタビューとして 「夫・山口昌男との日々」と題する、山口ふさ子さんの談話が出ている。 (以下は、その抜粋) 「主人とはくだらない話はずいぶんたくさんしましたが、結局、自分の関心以外は興味を示さない人でした。ひとつ、主義としてあったのは、遊ぶことが好きということです。自分がどんなにつらい思いをして働いていても、あるいは調査をしていても『遊び』と思っていたようです。私が『掃除ばかりしていて嫌だ』というような愚痴をこぼすと、『お前、嫌だと思うことはやらなくていいんだよ。楽しいと思うことだけをやれ。どうしてもしなくちゃいけないことは楽しいと思え』と言われたことがありました。結婚してすぐのころです。〈梁塵秘抄〉のなかにある『遊びをせんとや生まれけむ』という言葉を、まさに主人のことを言っているようでした。人が対象でも絵が対象でも、面白いと思うものに目がいく。それが文化人類学の根本じゃないかと私は思っています。面白いものを見つけるということ。それが役に立つものだったら役に立つだろうし、必要でなければ消えていくんじゃないでしょうか。p109 (中略) 主人のところには、いろんな人が集まってきては遊びや仕事の話をしていました。せっかく私がお料理を作って出しても、おいしいのひと言もない。食べるものも食べずに、机の上には本がどんどん積まれて、本の話に夢中です。そんなときに、これじゃ私は本当につまらなくなると思ったんです。それはもう主人と一緒に暮らしていけないということですからね。私ももっと遊ばなくっちゃ、と思い直しました。ちょっと図々しい奥さん役をやるようになったのはそれからです。それ以来、来たお客さんと一緒にお酒も飲むし、話にも加わるようになりました。来る人来る人、個性のある面白い人たちばかりでしたから、それが私の愉しみにもなりました。」p111 話が変わるが・・ しばらく前、ヨットマンの白石康次郎が、師匠の多田雄幸について話すのを聞いた。 ヨットが波をかぶって横転しそうになっても、師匠は動じることなく、それまで飲んでいたグラスをスッと置いて立ち上がり、帆走できるように帆を直し、操舵する場に戻ってグラスを取り、何事も無かったように言ったとか・・ 「自分たちは海に遊ばせてもらっている」。 山口昌男も知の冒険家である。世界をまたにかけて歩きもした。 冒険家というものは、皆、似たような思いを抱くようになるのであろうか。

七つの海を越えて―史上最年少ヨット単独無寄港世界一周 (文春文庫)
- 作者: 白石 康次郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2004/06
- メディア: 文庫