『デフレーション』 吉川洋 2013/01 著者は東京大学大学院教授。 デフレは不況の結果であり、不況の原因はイノベーションの不足と賃金低下であるという本。 デフレという言葉が高い頻度で登場するようになったのは、2001年から。 日銀は(白川総裁までは)デフレは景気悪化の原因ではなく結果であるとの見解をとってきた。一方マネーサプライ増加を求めるエコノミストは、デフレこそが長期停滞の原因だという立場である。 08年上期にデフレ脱却成るかという状況までになったが、9月のリーマンショック破綻から始まる金融危機で、再びマイナス成長・デフレに陥った。このとき世界全体がデフレの瀬戸際まで迫ったが、実際にデフレになったのは日本だけだった。 デフレの始点は1993年。94年にはGDPの名実逆転が始まっている。CPIが一貫して下落するのは99年から。 「デフレは貨幣的現象である」というマクロ経済学・金融論を「貨幣数量説」と呼ぶ。 デフレを脱却するには期待インフレ率を上げるしかない。その手法としてクルーグマンはインフレターゲットとマネーサプライの異常なまでの増加をあげる。著者はクルーグマンの提案に理論的基礎はないと述べる。著者は貨幣数量説を採らない。 日本の名目賃金は、ここ20年低下している。このような状況は他地域では見られない。日本企業が「雇用か賃金か」という選択において、常に雇用を優先してきたことが背景にある。日本経済全体が「デフレ体質」である。成長しているサービス関連の収益力が規制により高まらず、賃金が上げられない。雇用の硬直化が、専門職・技術職の不足に対応できていない。 長期停滞の究極の原因はイノベーションの欠乏だと述べる。コストダウンのようなプロセス・イノベーションは盛んだが、プロダクト・イノベーションはおろそかになっている。そしてデフレがさらにプロダクト・イノベーションを萎縮させる環境を与えている。
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