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第四百三十一話_short Xデイ

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 クリスマスが終わってしまったのに気づかなかった。いままでそんなことは決してなかったのに。

 毎年年の瀬になると世間は華やいで、クリスマス時期をピークに盛り上がっているのを私は毎年冷やかな目で眺めていた。子供が小さかった頃には私だってクリスマスのお祝いのようなことをやっていた時期はある。それは子供たちには世間並みの幸せを感じさせてあげたいと思っていたからだ。そして、そういうことこそが幸せがカタチになったものだと信じていたからだ。

 だが、子供が一人立ちし、夫婦だけの生活になると途端にクリスマスのようなイベントも意味を失い、私たち夫婦は世間が騒げば騒ぐほど寂しさを感じる年の瀬を過ごすようになっていった。

 そもそもクリスマスなど古来の日本にはなかったし、クリスチャンでもないのにキリストの生誕を祝うなどというのは馬鹿げている。以前からそういう風には思っていた。だが、そんな屁理屈はともかく、楽しい催事だと思えばいいじゃないかと自分をだまし続けて来たのだ。

 だが私は気づいてしまった。

 デフレを伴う不景気が続き、アベノなんとかというまやかしのような言葉で景気が回復するとは思えない状況の中で仕事を失い、妻も病に冒されて逝ってしまったいま、私は世の中に蔓延するまやかしや悪事を世間に告発し、ほんとうに幸せな未来へと導かなければならないと気づいたのだ。

 そのための第一歩を踏み出す日、XデイはXマスから一週間後。その日のために準備を重ねてきたのに、昨日Xマスが終わって既に秒読みが開始されていることに気づかなかったとは!

 いや、そんなことはどうでもいい。Xマスなど! 私にとって重要なのはXデイだ。大晦日のその日、私はあの繁華街のあの場所で、世間をあっと言わせるのだ。Xデイまであと僅か。世間のあほども、見ていろ。

 世間への恨みつらみと幸せへの想いはどんどん膨らんで、衣装も小道具も用意できているのだが……しかし、肝心の中身、つまりその衣装を着て何を言い何をするのかがまだひとつとして考えつかない。Xデイまでに間に合うのだろうか? 私は少しだけ不安になってきた。  

                      了


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