私が大好きで、号泣した作品です。母の愛を描いたものは多く、普遍で無償の愛がテーマものがほとんどだと思いますが、この作品は不器用だけど真っ直ぐな父の愛が軸になっていて、それがまた泣けるんです。
来年1月にテレビドラマ化されるとのことなので、もし未読の方で読んでみたいと思っている方がいたら、放送開始前の年末年始のお休み中の読書にいかがでしょうか?私個人の話ですが、好きな小説が映像化されて「イメージ通りだ!」と思えることがあまりないので(汗)それにテレビではちょっと放送できないけど重要なシーンもありますしね。
主人公の永田一雄は38歳。家庭は崩壊。仕事も先がない。「もう死んじゃってもいいよな、べつに・・・・」
そう思っている彼の前に現れたワイン色のオデッセイ。助手席から「遅かったね。ずっと待ってたんだから」と男の子が顔を出す。それは5年前に事故死した父、橋本さんと息子の健太くんが乗る不思議なワゴンだった。彼らは一雄を乗せ、タイムマシンのように時空を超えて旅に出る。
ワゴンは人生の岐路となった一雄の過去に彼を連れて行く。彼はそこでやり直して未来を変え、死んでもいいと思うほどの現状を好転させることができるのか?
設定はファンタジーなんですけど、描かれているのは父と息子の愛でした。一雄を過去へと連れてゆく橋本さん親子。こんなに仲のいい彼らがもうこの世にいないなんて、悲しい。橋本さんは、ただ綺麗な星空を息子に見せてあげたかった。しかし、不運にも事故に遭ってしまった。
「分かれ道は、たくさんあるんです。でもそのときにはなにも気づかない。気づかないまま結果だけが、不意に目の前に突きつけられるんです」という橋本さんの言葉が印象的です。人生は分岐点の連続なんだよな・・・。あとになってから気づいたり、あとにならなきゃ分からないことだらけ。
橋本さんのオデッセイに乗れない私は過去に戻ってやり直すことはできない。でも今を一生懸命に生きることならできる。もし明日死んでしまっても後悔のない毎日を送りたいと思いました。それって相当難しことですけどね。
一雄の父は、強くて、怖くて短気で、冷たくてひとりぼっちの人だった。一雄とはそりが合わず、彼は父が大嫌いだった。しかし一雄は自分自身も父親となって、父には父の夢や苦労があったのだということが分かったんだと思います。チュウさんに出会えて良かった。チュウさんの一雄に対する本当の思いを知ることができて良かった。ちょっと遅かったかも知れないけれど。
「勝ち負けがつかないものは意味がない」「仮面ライダーは変身して闘うから卑怯だ、男らしくない」というチュウさん。彼の頑固で徹底した男気キャラに笑っちゃいました。
事故現場の高原の道路を丘に向かって歩いて行く健太くんの場面から以降、号泣です。
筆者は文庫版のあとがきに「父親」でありながら「息子」でもある、そんな時期に書いておきたかったと書いています。それだからこそのリアルがありました。私は「娘」の立場しかないので、是非世の中のお父さんに、お父さんという立場で読んでもらいたいなぁと思います。
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