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第四百十八話_short 猫風呂

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 猫という生き物は人に従属しようとしないし、いろいろなことに無関心なように見えているが、実は物事の道理ガよくわかっている動物だ。高いところがあれば必ずやそこに上っていって鎮座し高みから部屋の中をじっと見ているのは、そうしたものの道理を静かに眺めているということなのだろう。

 なにがよくわかっているのかといえば、たとえば暖かい場所をよく知っている。暖炉の前や床暖房はもちろん、そのような暖房具でなくともテレビの上とか(最近のテレビはめっきり薄くなってしまってその上に載るのは困難なようだが)冷蔵庫の裏とか暖かい場所を見つけてそこに佇んでいる。

 うちのハルも暖かい場所を知っていて、秋も深まってくると思わぬところに収まっている。

 最初はいったいどこに隠れてしまったのかと探し回った。物置にもベッドの下にもいない。あっちこち探した挙句、風呂の中で見つけた。あったまったお湯を張り詰めた風呂桶の蓋の上で両前肢を折ってくつろいでいたのだ。なるほどここならさぞかしあったかかろう。

 ずっとそこにいるので、夜になって私が風呂に入る段には風呂蓋の上のハルが良き鑑賞物になってくれる。もっとも、猫は水が嫌いだから、水を飛ばさないように静かに入らないとすぐに逃げていってしまう。くつろいでいる猫を眺めながらの入浴はこちらもゆったりした気分になるのでとても温まることができるから悪くない。

 翌日になると、風呂蓋の上にいるのはハルだけではなかった。あいにく自分では見つけることができなかった兄弟のアキもハルの隣に鎮座していた。その翌日にはやはり兄弟のナツとフユもここぞ狭しと風呂蓋の上にいた。

 おいおい、あんまりたくさんで乗って大丈夫か? 風呂の蓋は樹脂製で案外丈夫そうではあるけれど。

 こうして我が家の風呂は猫風呂となったわけだが、その日によって一頭だけのときもあり、四頭集っているときもあり、それは楽しく風情のあるものだ。

 幸いにして犬にはそのような芸当をする気はさらさらないようで、同じ家に住まわせているリトリバー犬が加わらないのには助かった。あの図体で風呂蓋に乗ろうものなら、すぐに蓋は壊れるか外れてしまうかということになるに違いないからだ。 

                      了


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