<裏表紙あらすじ>
類稀な推理力を持つ友人の音野順のため、推理作家の白瀬白夜は仕事場の一角に探偵事務所を開設する。しかし当の音野は放っておくと暗いところへ暗いところへと逃げ込んでしまう、世界一気弱な名探偵だった。依頼人から持ち込まれた事件を解決するため、音野は白瀬に無理矢理引っ張り出され、おそるおそる事件現場に向かう。新世代ミステリの旗手が贈るユーモア・ミステリ第一弾。
引きこもりがちな探偵とそれを放っておかない友人、という組み合わせは、坂木司の引きこもり三部作(
「青空の卵」 、
「仔羊の巣」 、
「動物園の鳥」 、いずれも創元推理文庫)を思わせますが、作風が全然違います。引きこもり三部作を気持ち悪いと思ったあなたも大丈夫です。かくいうぼくも、あちらは相当気持ち悪いなー、と思いながら読みましたが、こちらはユーモア・ミステリという体裁も手伝ってか、気持ち悪くはありません。
ただ、探偵のあまりの気弱ぶりに、違う意味でいらいらするかもしれませんが(笑)。
「踊るジョーカー」
「時間泥棒」
「見えないダイイング・メッセージ」
「毒入りバレンタイン・チョコ」
「ゆきだるまが殺しにやってくる」
の5編収録の短編集です。
北山猛邦といえば、やはり素っ頓狂なトリック、しかも物理的なトリック、というイメージでして、そういう路線は近頃だとレアものだったりするので結構好きなんですが、短編だと窮屈だろうなぁ、とちょっと心配しながら読みました。
いやいや、短編でも、北山猛邦は北山猛邦でしたね。安心。
冒頭の「踊るジョーカー」のトリックの馬鹿馬鹿しさ(褒め言葉です)たるや、もう傑作というしかありません。こんなの絶対うまくいかないぞ、という自信ありますが、いいんです、いいんです。北山猛邦が短編でも北山猛邦だとわかって安心できましたから。
「時間泥棒」は、単なる「時計泥棒」です(笑)。物理的、物質的なトリックが出てこないので、北山猛邦にしては珍しいタイプの作品かもしれません。
「見えないダイイング・メッセージ」は堂々としたタイトルに感服。このダイイング・メッセージは誰にも気づかれないんじゃないだろうか、と思うので、被害者はこういう形ではメッセージを残さないような気がしますが、ミステリ的には美しいメッセージだと思います。前例や類例を思いつきません。素晴らしいアイデアです。
「毒入りバレンタイン・チョコ」は、被害者だけにどうやって毒入りチョコレートを食べさせたのか、というミステリではよくあるテーマを扱っていますが、うーん、そう来ましたが。突っ込みどころ満載のトリックで、うまくいかないこと必至だと思われるんですが、図入りで説明しているその図のせいでさらに突っ込むポイントが増えちゃうというお茶目なところがポイントです。見れば見るほど、うまくいきそうもないトリックだなぁ。
「ゆきだるまが殺しにやってくる」のトリック、気に入りました。これは、うまくいきそうなトリックです。これって
日本の某名作( Amazon.co.jp にリンクを貼っています。ネタばれを気にしない人はクリックして確かめてください)へのオマージュ的なトリックですよね!? こういう継承ステキだと思います。
トリックに無理があることも含めて、愛すべき作品集だと思います。
シリーズ化されているので、今後も読んでいきたいです。