「三つキーワードをいただいたら、曲なんてすぐにできますわ」
かつて一世を風靡したシンガーソングライターである鬼瓦契が言った。デビューから既に二十数年過ぎており、彼女はもはやポップス界の大御所だ。いまでも多くの楽曲を作り続けており、その一種独特ながらも美しい歌詞と旋律は多くのファンを保ち続けている。
発言はとあるバラエティ番組に出演した時に突発的に放った言葉ではあるが、真実であるらしい。
「じゃぁ、いま、僕が三つの言葉を言えば、なにか作ってもらえますか?」
ホストの男性タレントの矢崎が言うと、契はにっこり笑って言った。
「よろしいですわよ。その代わりお高いですわよ」
「あわわ……お金、取るの?」
「あったりまえじゃない。ボランティアじゃないんだから」
矢崎は一瞬ひるんだようだったが、隣に座っているバラックス梅子に「早く言いなさいよ」と急かされながらも考えていたが、やがて言った。
「ええーっと、じゃぁ、この三つのキーワードでお願いします……斬新、タダ、ウソみたい。いいですか、この三つで?」
契はまたにっこり笑って言った。
「そう来ましたか。分かったわ。三分待ってね」
三分後、契はスタジオの端っこに急遽運び込まれたキーボードの前に座って弾き語りの準備をした。
「じゃぁ、いきます」
静かに両手をキーボードの上にかざすと白い指が白鍵の上を滑りはじめ、心地よいイントロが……イントロが聞こえてこないけど指はなにかを弾いているように動いている。契は何食わぬ顔でスタンドから伸びたマイクに向かって歌いはじめた。熱唱だ……声は聞こえない。目の前にいたADは電気トラブルかと一瞬焦った。
だが契は慌てもせずに身をよじりながら指を動かし、恍惚の表情で口をパクパクし続けていた。無音の中でその姿を見ているうちにスタジオにいた聴衆はなんだか素晴らしい音楽を聴いているような錯覚に陥っていく。そして間もなく動きを止めた。優雅に両手をキーボードから放して静かに立ち上がると、みんなにお辞儀をする契。
「……斬新だったでしょ? ウソみたいでしょ」
矢崎が何か言う前にまた契がにっこり笑って言った。
「短いからタダでいーわ」
すかさず矢崎。
「アウトー!」
了
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