徳川家といえば、江戸幕府第15代将軍徳川慶喜の大政奉還までは教科書にも出てくるかと思いますが、その後はどうなったのか、一般的にはあまり知られていないと思います。
この本では、明治以降の徳川家を背負った第16代の徳川家達(いえさと)のことが詳しく書かれています。
この徳川家達という人物は、慶喜の子ではありません。1863(文久3)年に徳川御三卿の田安家に生まれ、鳥羽伏見の戦いに敗れ隠居謹慎となった慶喜に代わり、4歳で家督を相続しています。
明治維新で徳川家は駿河・遠江70万石の一大名となり、静岡へ移ります。廃藩置県によって東京へ戻り、明治新政府の定めた華族制度では一番上の公爵の地位を与えられます。
そして憲法制定後は貴族院議員となり、1903(明治36)年には貴族院議長となり、1933(昭和8)年まで30年間議長を務めます。その間に、1921(大正10)年には軍縮を協議したワシントン会議に全権委員として参加し、またその前の1914(大正3)年には、首相就任を天皇より打診され固辞したりもしています。そして太平洋戦争を前に1940(昭和15)年に76歳で死去しています。
経歴を見ただけでもびっくりするようなことばかりですが、同時に、武家の時代が終焉した後の新しい世の中における徳川家の役割、立ち位置というものを、慎重に見極めて行動していた様子もうかがえます。
また、慶喜との関係は微妙なものがあったようで、家達自身は、徳川家は15代で一旦終わりになり、自分の代から新しい徳川家が始まった、というような意識を持っていたようです。
内容的には事実を淡々と追い続けた感じの文面で、家達自身の内面に迫るような場面はそれほどありませんが、関連する文献を丁寧に拾い上げて書かれています。歴史の盲点を埋める一冊と言えると思います。
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