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死季

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ジューという音と共に
焦臭い臭いがした時 私はもうすでに
一片の木と化していた
まだ浅い春の午後であった

光る驟雨に打たれ
握りしめた一束の色褪せた花を
遠い空へ捨てたのは
真夏の光がぎらぎらする午後だった

金色の波打つ稲穂の代りに
掴みきれないほどの重い
夢をみたのは 澄明な空の下に
散る紅葉の季節だった

凋落の静寂な朝を迎えた日
緑の谷間に戻る決心を
鈍らせたのは
私の痛い夢を眠りにつかせる雪だった

四季の移り変りは早かった
私は口数も少なく象のように歩き
猫のように鳴いたけれども
私の死季への愛を語るには
友人の一人もいなかったのだ

今も時おり
ジューという音が聞える
あれは私の死体を焼く音だろうか


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