有名な監査法人の看板公認会計士・不破はルックスもよく肩書きだけなら満点だが、性格は合理的で冷たい「観賞用」の男。ある日、交通事故に巻き込まれ、はずみで顔見知りの大学生・三谷に怪我をさせてしまった。世間体から仕方なく彼の面倒をみることになった不破。そんな裏など読みとれず、不破の社交辞令を優しさと勘違いする三谷の鈍さに初めは苛立っていたはずが、いつしか可愛く思えてきて…。腹黒公認会計士×天然大学生。
安心して読めるお話でした。不破は腹黒というほど黒くもないというか、むしろいい人に思えるのは、なんだか読んでいるうちに変なフィルターがかかってきたのかもしれません。その原因とも云える大学生の三谷はのほほんとしているのですが、性格にブレもなく全く嫌みもなく。アホの子でも子どもっぽくないのです。金のフォーク、いいですね。うん。そして不破に告白までさせてしまいました(笑)。不破がふと実家に電話をするところが好きです。ああ、あきらかに影響なんだなと。大切なものを見つけたら手を離すべきではなく、そして大切にすることが大事です。 ★★☆
「俺、迷惑じゃない?」
戸惑ったように尋ねられ、風呂の給湯パネルの前に向かいかけていた不破は、不審に思って振り返る。
そして、怒られた犬のような顔を見せる三谷を見て、ついこの間も迷惑だと言ったことを思い出した。
そうか、これまでの自分の対応を考えると、当然迷惑だと思っていることになってしまうのかと考える。
「これだけ何回もうちに飯食いに来ておいて、今さら迷惑もくそもあるか」
相変わらずもの言いは横柄になってしまうが、今になって猫撫で声で、迷惑だなんてこれっぽっちも思っていないよ、などと否定するのも不自然な気がして、不破は邪険な言い方をしてしまう。
だが、そんなことで妙な意地を張っている自分も大人げなくて、口にしてから少し笑ってしまった。不審そうな顔となる三谷に、風呂のお湯張りボタンを押しながら、笑顔のまま声をかける。
「学生が妙な遠慮なんかするな。君がソファーで一晩ぐらい寝ていったからって、別に困りはしない」
会うのに理由がいるのかとか、そんなごたくがなければ、会って話すこともできないのかというのは、普段の不破にしてみれば奇妙な言い分だった。
会う必要がない相手のために時間を割くのは、煩わしいし無駄なだけだと、長らく思っていた。
「そうですか」
大西のアドバイスに、不破は知らずほっとしたような顔となってしまう。
「逆玉…ってやつだな」
大西はにやりと笑う。
「君、案外、格好の悪いところに収まったな」
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