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第三百八十九話_short 脳トレジム

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 最近、あちこちで筋トレフィットネスジムをよく見かけるようになったのだが、一風変わったジムを発見した。

”脳トレフィットネスジム・ブレインサーキット” 

 脳トレって……昔流行った「頭の体操」みたいなことなのかな? そう思いつつ、興味がわいて体験コースにでかけてみることにした。

「やぁ、よくいらっしゃいました」

 眼鏡をかけた体操教師といった風情のインストラクターに出迎えられて、ジムに足を踏み入れた。

「脳もいわば筋肉みたいなものなんです。身体の筋肉と同じように鍛えることで磨きがかかるし、なにより将来惚けたりすることの予防になりますよ」

 なるほど、筋肉と同じように鍛えるのか。およそ想像道理だったが、いったいどうやって鍛えるのだろう。ジムの中には筋トレジムさながらさまざまなフィットネスマシンらしきものが並んでいる。

「それではまず、有酸素運動でウォーミングアップしてください」

 学校の机みたいなものが並んでいて、その一つに座らせられた。渡された紙束には単純な数字の足し算がぎっしり印刷されていてどうやらその答えを鉛筆で書いていくようだ。

「これは起訴体力をつくるウォーキングのようなものです。自分で決めた時間内にどんどん計算を行っていくのです。脳の有酸素運動です」

 なるほどそういうものか。1+2=みたいな非常に単純なものから、25×8=とか、311+298=みたいなちょっと面倒くさそうなものまで、さまざまな計算式が並んでいた。

 三十分ほど計算を続けていると頭がくらくらしてきて、もうそろそろいいかと机から立ち上がった。

 いよいよマシンに挑戦だ。

「では、順番にやってみますか?」

 インストラクターに誘導されてマシンのひとつに向き合った。それはまるでゲームセンターにあるシュミレーションバイクのようなものだった。

「これは前頭葉の筋トレです。思考や判断を司る前頭葉を訓練できるのです」

 バイクの座席にまたがって全面に大きなスクリーンと対峙する。スタートボタンを押すとスクリーンにストリートが映って、その中を走っていくのだが、車や人が近づいてきてぶつかりそうになったり、モノが飛んできたりするのをハンドル操作や身体を傾けて避けるためにはとっさの判断や先を見通す思考力がモノをいう。なるほど、これは前頭葉が鍛えられそうだ。

 仮想空間眼鏡をかけて架空の部屋の中を歩き回るマシンは頭頂葉を鍛えるもので、モニタを見ながら色や形の違う図形を使ったパズルや写真の間違い探しを行うクイズっぽいマシンは側頭葉を鍛えるものだという。

 真っ暗な小部屋の中に入って恐ろしい動画をこれでもかと見せられるマシンは恐怖を司る扁桃体や海馬を鍛えるためのマシンだそうだが、これはちょっと辟易した。なにしろ恐いのだ。

 ほかにも後頭葉を鍛えるマシンや視床下部に喝を入れるマシンというものもあったが、もうこれ以上は覚えられなかった。

 どれもこれもどこかのパークのアトラクションを小ぶりにしたようなもので結構楽しめた。こんなことで脳が鍛えられるのなら、会員になってもいいような気がしてきた。

「すべて終了したら、ストレッチをして帰ってくださいね。脳痛にならないようにね」

「脳痛? なんですか、それは」

「ほら、筋トレをしたら翌日筋肉痛とあになるでしょう? あれとおんなじです。脳の筋肉痛ですよ」

 はじめて聞くことだったが、いかにもありそうだと思った。ほんとうにそんな痛みがあるのだろうか?

 ストレッチは、いわゆる頭の体操的な、なぞなぞとの取り組みだった。

”くるみ、たまご、チョコレート、ど-れだ?”

”北海道、本州、四国、九州、日本列島でいちばん長いのはどーれだ?”

 こういう簡単ななぞなぞを適当に解いていく。 

 たしかにこれは脳をほぐすのにはいいのかもしれない。さて、明日、脳痛になるかどうか、楽しみになってきた。 

                       了

                                             ※なぞなぞは小林賢太郎テレビ6から拝借しました。 
 

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