謎の建築家、中村青司が建築した数々の奇妙な館。そこで次々と起きる
殺人事件を伴う謎に、推理小説家の主人公が積極的に関わって謎を解き、
事件を解決していく連作推理小説も9作目になる。
(厳密には1館だけは省かれるのだが)
今回は奇妙なお面の収集家が中村青司に依頼してできた館が舞台。
代替わりしてはいたが、館の奇妙さだけは引き継がれている。
今回はドッペルゲンガーの物語。
館の今の主は自分に幸運をもたらすと思われるドッペルゲンガーを
求めて6人の人間を館に招待した。一泊するだけで200万円を
進呈するという。
招待された中の小説家の男が、急病のためたまたま自分とよく似た
主人公に身代わりを依頼する。お金のことだけなら断った主人公も、
中村青司の館と聞いて引き受けることに。
館では3人の使用人以外は館の主人も含め、全員同じ姿をさせられ、
区別できるのは各自に与えられた鍵のかかる面だけ。
そして深夜殺人事件が起きる。眠りこけている間に面をかぶらされて
鍵が行方不明となった全員の前に首のない死体が発見される。
果たして殺されたのは誰なのか。また何のために全員はずすことの
できない面をつけさせられたのか。
推理小説には約束事があるが、このシリーズでは重要な約束を
無視している。事件発生までに知らされない秘密の抜け穴を設けては
いけないという。
この約束事を「中村青司」という単語一つで崩してしまう。彼が
作った館ではどんな仕掛けがあってもかまわないという。密室は
論理的にではなく機械的に崩してしまう。それがシリーズでの
お約束。
推理小説だから伏線貼りまくり。ほとんど気がつかない。
まあ一番受ける伏線は、叔母の替わりに急遽アルバイトで来た
使用人の若い女性が、柔術の達人だと言うこと。いやぁ、まさか
この設定をそういうところで使用しましたか。
エピローグで、こんな事件は親しい編集者にいくら頼まれても
小説にはできないと語らせている。いわゆる言い訳。あまりにも
偶然が重なりすぎているから。でも、このとんでもない偶然は
明らかにされるまでまったく気がつかなかった。ちょっと考えれば
わかりそうなものだったのに。
このシリーズは10作で完結と最初から決めていたとか。
だから次回で最後。もっとも何年後の話になるやら。この作品でさえ
前作を出してから20年ぶりの書き下ろしと言うし。
前作でシリーズでないとできないトリックも使ったし、「中村青司」の
正体も明らかにしたし、ネタも尽きたのではと心配になったり。
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