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『楠木正儀』

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楠木正儀

  • 作者: 大谷 晃一
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 1990/01
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
楠木正成の三男に生れ、南朝の柱石と頼まれながら、内通と転向を繰返し、歴史から消えた非運の武将の謎を辿る『太平記』終焉譚。石田三成に殉じ関ケ原に散った悲劇の名将・大谷吉継を描く『醜』を併録。
『吉野朝太平記』第3巻を紹介した際、楠木正儀と北畠親房の関係は、作品によって両極端に描かれると述べた。『吉野朝太平記』では正儀にとって親房は南朝方における最大の理解者であり、正儀が繰り出す策略の最大の後ろ盾となっていた。一方で、その他多くの作品での親房像は、武家の論理を全く理解しない公家の象徴でしかない。 本書も例外ではない。執拗に京都奪還にこだわって楠木党に出撃を命ずるが、その先にある政権ビジョンは、後醍醐天皇が既に失敗を証明している建武の親政の再興でしかなく、その浅はかさがわかってしまった正儀が南朝に愛想を尽かして徐々にやる気を失っていったことが、やがて南朝方公家や武将の間で疎んじられるようになった正儀の北朝への投降に繋がったと著者は見ている。それでも彼の2人の息子が南朝方を離れず父親と戦ったのは、彼らの母親である伊賀局が元々吉野朝廷に仕えていた女官だったので、朝廷から母へ、母から息子たちへと「北朝許すまじ」の意識が刷り込まれたのだろうと著者は考えている。一般的な正儀の評価と齟齬のない形で史実を解釈していけば、自ずとこういう考え方になるだろうという、非常に正統的な議論の展開の仕方だと思う。 さすがに著者は元新聞記者である。年代記として史実がそつなく整理されており、他の歴史小説を読みながら史実の部分とフィクションの部分を峻別するのには役に立つと思う。また、その場所が今どういう地名で呼ばれているのかがかなり執拗に書かれているので、地理関係を理解するのには役に立つだろう。ただ、書き方としてはあまり面白くない。小見出しを多用して欲しいが、大正生まれの著者が20年以上前に書いた作品に文句つけても仕方がないか…。 本書にはもう1つ、大谷吉継を描いた『醜』という作品も収められている。本のタイトルには『楠木正儀』としか書かれていないので、取り寄せてみてちょっと騙された感はあった。ただ、大谷刑部についてはいずれもう少し調べてみたいと思っていたので、先ずは史実を押さえるエントリー的読み物としては感謝したい。

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