西村京太郎の『雷鳥九号殺人事件』を中学生のとき以来、20ウン年ぶりに再読しました。
1983年、カッパノベルスから刊行された短編集。収録されてる5つの短編のうち、4つに十津川警部が登場します。
この本には思い出があります。
中学1年生のとき、コナン・ドイルのホームズ・シリーズ(新潮文庫版)、松本清張『点と線』、鮎川哲也のアリバイ物、横溝正史の金田一耕助シリーズで、ミステリの魅力に取り憑かれはじめた私は、近くの書店にこづかいを握りしめて新たなミステリを探しに行きました。
『雷鳥九号殺人事件』というタイトルと裏表紙のあらすじをみて、なんとなく『点と線』や鮎川哲也の長編のような鉄道アリバイ物かなと想像し、レジへ。
当時は、赤川次郎の三毛猫ホームズと西村京太郎の十津川警部シリーズがカッパの二大看板で、それはそれはAKB48なみの勢いでしたから、作者・西村京太郎の名前も知っておりました。
レジのオジサンから、「これ、君が読むの?」と聞かれたことを昨日のことのように覚えています。
再読してみて驚いたのは、どうでもよい細部を覚えていたこと(少年の時の記憶は薄れない)、そして、意外にも本格ミステリとして評価できる一定の水準にある短編集だったことです。
「「雷鳥九号」殺人事件」
表題作です。離れた場所で発生した2つの殺人事件。両方とも凶器として同じピストルが使用されるが、凶器を受け渡すことが時間的に困難で、不可能犯罪を構成する、というもの。
トリックに守られ余裕の黙秘を続ける犯人と、法廷でのサスペンスなど、なかなかの表現。
トリックは、現場に行けば誰でも一目瞭然たろうし、そもそも国鉄職員に聞けば一発回答ではないかと思いますが、まあそこはご愛敬。
「幻の特急を見た」
この短編集では一番のデキ。
ある青年は「犯行時刻に別の場所で特急を目撃し、車掌が手を振ってくれた」というアリバイを主張するが、時刻表をみてもそのような特急は存在しない。窮地に立つ青年を十津川が救う、というストーリー。
「幻の特急」のネタも、鉄道トリビア的なもので、国鉄職員に聞けば終わるというものですが、この短編はもうひとつトリックを使っていて、もうひとりの容疑者にアリバイを成立させているところがミソ。
「急行「だいせん」殺人事件」
寝台列車で男が殺され、隣で寝ていた妻に一時容疑が向けられる。妻は単独で捜査開始。地元警察の協力で真犯人のアリバイを崩す。
このトリックも、時刻表をよ~く読めば分かるというレベル。
この短編には十津川や亀井は登場しません。彼らは警視庁の刑事ですから、地方の事件に首をつっこむほうが不自然で、この短編はその点、警察の動きはスムーズ。
「殺人は食堂車で」
長距離列車の食堂車で有名な俳優が毒殺される。はたして犯人はどのようにして毒を混入したのか。
たまたま現場が食堂車だったというだけで、内容は伝統的な毒殺テーマ。
そういえば、最近はすっかり食堂車がなくなりました。その代わり、駅弁がクローズアップされていますね。
「夜行列車「日本海」の謎」
『夜間飛行殺人事件』(1978年)で結婚した十津川の妻、直子の元夫が殺され、直子に殺人容疑がかかる。逮捕は時間の問題。十津川は単独で違法捜査スレスレの手段を使い、懸命に真犯人を追い込む。
十津川警部自身の事件、といったところで、短編で使ってしまうのはもったいないシチュエーションではないでしょうか。
島田荘司の『北の夕鶴2/3の殺人』と設定が似ていますね。こちらは、吉敷刑事が元妻の通子を救うべく孤軍奮闘。
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