<裏表紙あらすじ>
都心でネット財閥「アクトグループ」を標的とした連続爆弾テロ事件が発生した。公安の並河警部補は、防衛庁から出向した丹原三曹と調査に乗り出すが……。『亡国のイージス』『終戦のローレライ』など、読者を圧倒し続ける壮大な作品で知られる著者が、現代の東京を舞台に史上最大級のスケールで描く力作長篇。 <上巻>
並河警部補は、捜査を進めるうちに丹原三曹とテロの実行犯、「ローズダスト」のリーダー入江一功との間にある深い因縁を知る。並河とのふれあいに戸惑いながらも、過去の贖罪のために入江との戦いに没入してゆく丹原。だが日本に変革を促そうとする真の敵は、二人の想像を絶するところで動き出していた。今、日本が戦場と化す! <下巻>
かつて防衛庁の非公開組織に所属していた丹原朋希と入江一功。二人の胸には常に、救えなかった一人の少女の言葉があった。同じ希望を共有しながら、宿命に分かたれた二人。戦場と化した東京・臨海副都心を舞台に、この国の未来を問う壮絶な祭儀が幕を開けた。前代未聞の思索スペクタル、驚愕の完結篇。 <下巻>
福井晴敏さんは寡作ですね。
映画関連やガンダム関連を除くと、本当に少ない。少ない中で、受賞歴はきらびやかです。
「Twelve Y.O.」 (講談社文庫)で乱歩賞を受賞してデビューしたのが1998年。
その後、1999年に大作「亡国のイージス」 (上) (下) (講談社文庫)。この作品は第2回大藪春彦賞、第18回日本冒険小説協会大賞、第53回日本推理作家協会賞を受賞。
2000年には、「Twelve Y.O.」 の前に乱歩賞に応募した「川の深さは」 (講談社文庫)を発表。
2002年にこれまた大作「終戦のローレライ」 (1) (2) (3) (4) (講談社文庫)。この作品は第24回吉川英治文学新人賞と第21回日本冒険小説協会大賞を受賞。
2004年に発表された短編集「6ステイン」 (講談社文庫)を挟んで、2006年に本書。
そのあとは2007年に「平成関東大震災 いつか来るとは知っていたが今日来るとは思わなかった」 (講談社文庫)というシミュレーションノベルが、2011年に「小説・震災後」 (小学館文庫)が出ていますが、少ないですよね。特に最後の2冊は、ミステリ・冒険小説というフィールドからは外れた作品のように思えますので(未読です)、ミステリファンとしてはちょっとさびしい。
その意味では、待望の福井作品だったわけですが、なにしろ大作なので読むにはそれなりの準備というか、心づもりが必要で、2009年2月に文庫化されて即購入していたものの、例によって積読。ようやく読みました。
DAISシリーズというのでしょうか?
福井さんの現代ものに登場する非公開情報機関DAIS (Defense Agency Information Service :防衛庁情報局)が今回も登場します。
DAIS に限らず、いつもの福井節をたっぷり堪能できる超大作です。
今回作者が用意した材料は、TPex。核兵器並みの破壊力がありながら、核兵器ではない、という代物。起爆臨界に15分かかるという欠点はあるが...という設定。
臨海副都心を舞台に、テロという名前で、戦争を展開して見せてくれます。防衛組織の新旧専門家が戦うわけですから、もう「テロ」ではなく、「戦争」です。ここがやはり、圧巻、です。
作者の思想・信条が、ダイレクトに書き連ねられるというマイナスはあまり修正されていませんが、こちらが慣れたせいもあるでしょうが、さすがにやはりくどいとは思いますが、抵抗感は薄くなっています。オープニングで出てくる「ローズダスト」と「新しい言葉」という二つのキーワードを立てて、ストーリー・流れに主張を溶け込ませようとしているのも、ある程度効果はあったかな。作者も気にしているのでしょうね、乱歩賞の選評で大沢在昌さんに指摘されていることでもあるし。それでも抑えきれない、と、そういうことなんだと思います。主人公格である丹原と入江の DAIS での訓練時代の情景がなかなか楽しくて、作者のくどさを和らげてくれていたかも。
警察官である並河と防衛庁サイドである丹原のやりとり・関係も、その他の登場人物のキャラクター設定も含めて、型通りといえば型通りながら、安定した人物配置でストーリーが展開されて、非常に堅固な物語世界になっていると思います。どっぷり浸るにうってつけ。仲良く(?)訓練していた二人が、敵味方に別れて闘うって、やっぱり「来ます」よね。そしてそれが、ど派手な「戦争」なんですから。
ひさしぶりの福井作品。読み終わるのにずいぶん時間はかかりましたが、十分楽しみました。
この後、こういう路線の作品は発表されていないので、まだ戻ってくることを期待!
↧