長野まゆみさんの「45°」を読みました。
ーファストフード店で後ろの席から聞こえた奇妙な会話。30年前、とあるビルの3階から転落し、記憶を失ったというその人物は、自分が何故ビルから転落したのかを調べているらしい。その人物が呼び出した相手は、転落したビルの正面に建つビルの屋上でアドバルーンの監視や上げ下げを行う浮揚員のバイトをしていた男だった。アドバルーンは強風で45°の傾きになったら下げる決まりであり、アドバルーンが上がっている限り必ず1人の浮揚員がついているのだ。転落した人物は、自分が転落した瞬間を目撃したのではないかと縋るように尋ねている。そして、浮揚員をしていたという彼が語った真相とは(45°)ー
表題作の「45°」をはじめ、収録された短編のタイトルが「/Y」とか「P.」とか「●」など、ちょっと不思議なものばかり。タイトル同様中身も不思議なお話です。長野風ミステリ短編集といったところでしょうか。表題作の「45°」は、アドバルーンが絡んだお話。アドバルーンが上がっている場所には必ず浮揚員というアルバイトがいるというのは知りませんでした。傾きが45°になったら下ろすというのも知りませんでした。最近、アドバルーン自体見なくなりましたし。この本に収録されているのは、ファストフード店や電車の中、雑踏ですれ違った人達から聞こえて来た何気ない会話が実は……というパターンです。ちょっと野次馬根性丸出しのおばちゃんみたいですが、確かに断片的に聞こえて来る他人の会話というのは、こちらの妄想をかきたてるものがあります。長野さんの最近の作風である「性倒錯」や、性別の曖昧さ、女同士の僻や妬みなどが絡み合って一癖も二癖もある作品が揃っています。時々ドキドキするような夢を私も見ることがあるので、「W.C.」は面白かったです。個人的には長野まゆみといえばカタカナ文字を漢字で書き、日本的なのに西洋の香りもするような少年達の物語の方が好きです。この人が成人した男女を書くとどうも生々しい。ご本人が健康志向なのは理解できますが、作中にまであまりカロリー蘊蓄を持ち込んでほしくないなあ。昔のような曹達水と甘い砂糖菓子のお話が読みたいです。和菓子でも良いですけど。
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