松浦理英子の新作を買ったのを忘れていて、本棚にしばらく放置されていた。
「奇貨」という言葉を、私自身は、「○○を奇貨として、××した。」という風に、否定的な場面でしか使わない。ところが、この小説では、文字通り、珍しい宝物、のような肯定的な意味で使っていて、私としては、「ああ、奇貨にはそういう意味もあったんだ。」と、ちょっと意外だった。
草食系中年男とレズビアンの女性の関係を、男の視点から描いた小説で、「奇貨」は、男にとっての、その女性との関係を言っている、らしい。正直、この作家の作品にしては、小さくまとまってしまったような感がして、拍子抜けしてしまった。薄い単行本で、後半は若い頃の別の作品が収録されているので、短い小説だということは分かっていたのだが、「え、それで終わり?」という感じ。長編の親指Pも、短編の葬儀の日も、どちらも面白かったので、短いからもの足りないというものではない。ただ、このような小説だったら、他にも誰かが書いているような気がして、この作者でなければ書けない、というものがなくて、失望したように思う。